学校であった怖い話
>序(坂上修一)
>A1

「今度の新聞で、うちの高校の七不思議の特集を組もうぜ」

部長の一言で、僕たち新聞部は学校の七不思議を特集することになった。
今年の夏に、長い間使われていなかった旧校舎が取り壊されることになり、それに合わせて恐怖ネタをやりたいということだった。
そして、まだ一年生で新人の僕が、その担当に選ばれてしまったわけだ。

けれど、どんな怖い話がこの学校に伝えられているのか僕はよく知らない。
そこで、学校の七不思議にまつわる話を知っている人たちを、先輩が部室に集めてくれることになった。

先輩は用があってこれないらしく、実際には僕が仕切らねばならなくなった。
集まった七人が誰なのか、会ってみるまでわからない。
今日の放課後、部室にその七人が集まるという。
僕は、あまり怖い話が得意ではなく、どちらかというと臆病かもしれない。

今日は、どんよりとした灰色の雲が空一面を埋めつくし、いつ雨になってもおかしくない天気だ。
吹く風もジメッとしていて、肌にまとわりついて離れない。
何でこんな日に、薄暗い部室で怖い話を聞かねばならないのか、僕は逃げ出したくなってきた。

それでも、自分の意思とは反対に脚が部室のほうへ勝手に向かっているのは、心のどこかで怖い物見たさという思いがあるからだろうか。

部室のドアを開けると、いっせいに十二個の目が僕のほうを見た。
部室の真ん中におかれた大きなテーブルを囲むようにして、六人の男女が静かに座っていた。
あまりの静けさに、僕は部室のドアを開けるまで誰もいないと思ったほどだ。

六人は、僕を確かめるとテーブルの一点を注目するように顔を落としてしまった。
僕の知っている顔はなかった。
学校が大きいから、同学年でも見たことのない顔があっても不思議ではない。
集まっている六人も、雰囲気からそれぞれが見ず知らずのように思える。

六人?
先輩の話では、七人に声をかけるということだった。
ということは、まだ一人来ていないのだろうか。

僕は、とりあえずあいている席に座った。
誰がしゃべるということもなく、何とも気まずい無言の時間が過ぎていく。
僕が話せばいいのだけれど、何とも話しづらい雰囲気だ。
みんな下を向いたまま、ぴくりとも体を動かさない。

そして、来るべきはずの七人目も一向に来る気配がない。
ただ、いたずらに時間だけが過ぎていく。
いつまでもこうしていても、どうしようもない。
「……あのう、皆さん、お忙しい中集まっていただいたと思いますのでそろそろ始めたいと思うのですが」

僕は、思い切って声をかけてみた。

「七人集まると聞いていたんだけれど、君が七人目なのかい? それとも、君は僕たちの話を聞く新聞部の人なのかい?」
中の一人がうつむいたまま、目だけを僕のほうに向けてぽそりと呟いた。
なんて陰気そうな人だろう。
僕は、彼に見られただけで、背筋が寒くなるのを覚えた。

「はい。僕は新聞部の坂上修一といいます。
今日は、皆さんの話をお伺いするように、先輩の日野さんからいわれています。
よろしくお願いします」
僕が答えると、みんなは黙って頷いた。
それきり、何も話してくれない。
「あのう、どうでしょうか? このまま待っていても仕方がないので、そろそろ始めませんか?」
僕は、しびれを切らしもう一度尋ねた。

「いいですよ」
一人がいい、残りの人たちはゆっくりと頷いた。
いったい、彼らはどんな怖い話をしてくれるのだろうか?
部室の空気が妙に重く、肩にのしかかっているような気がしたのは僕だけだろうか。

立て付けの悪い窓から漏れる生暖かい隙間風が、僕の頬をなめるように吹いている。
何か得体の知れない気味の悪いものがここにいて、何かが起きるのを待っているように思えてならない。
そんな言い知れぬ恐怖を感じさせる何かが、ここにはある。

なぜだろう。
なぜ、そんなことを思うのだろう。
息をするのさえ苦しく思える。
こんな気持ちは初めてだ。
僕は、そんな思いを断ち切るようにして、大きな声でいった。

「それでは、始めましょう」
まだ見ぬ七人目を待たずして、集められた六人の学校であった怖い話が始まった。


学校であったい話