学校であった怖い話
>一話目(新堂誠)
>A4

よっぽど、彼女のことを愛してたんだろうな。
吉岡は、迷わず答えたんだ。
彼女は、とても喜んだってよ。
聞いてた俺のほうが照れちまう話だ。

それで、二人は、夜中の学校に忍び込んだんだ。
まるで、駆け落ちするようなもんだよな。
親に内緒で、若い二人が手に手を取り合って、そっと逃げ出す。
まあ、逃げる先が最果ての地じゃなくて、異次元ってところが違うけどさ。

二人は、少しも怖くなかった。
そりゃあ、そうさ。
なんてったって、二人は希望に満ちていたんだからな。
刻々と、その時が迫ってきた。
チャンスは一度しかない。
三時三十三分三十三秒丁度を逃すと、異次元にはいけないんだからな。

ついに、運命の時が来た。
二人は、その瞬間、鏡に両手をついたんだ。
……ところが、どうだ。
吉岡は、わずかにタイミングをはずしちまったんだな。

吉岡の見ている前で、目黒さんの姿が霧のように薄らいで鏡の中に吸い込まれたんだ。
あとには、吉岡一人が取り残された。
呼べど叫べど、返事はない。
鏡にも、自分の姿しか映らない。
これが夢であってくれと、吉岡は願ったのさ。
けれど、そうじゃなかった。

次の日から、目黒さんはいなくなった。
それで、それからというもの、吉岡は毎晩、学校に忍び込んで、その鏡の前に立ち、時間になると鏡に手をついていたって言うんだ。
それでも微妙にタイミングがずれるのか、何度やっても一度も成功しないらしい。

それで悩んだすえ、誰かに手伝ってほしくて、俺に相談したと言うんだ。
そんな話、信じられるか?
真顔で、真剣にそんな話を、俺にするんだぜ。
目黒さんが学校に来なくなったという話は、俺も知っていた。
クラスは違うけれど、そういう話はすぐに広まるもんだ。

けれど、鏡に吸い込まれたっていう話は、聞かなかったな。
行方不明だとか、家出したとか、登校拒否になったとか、みんなは好き勝手言ってたさ。
愛する目黒さんがいなくなって、吉岡はおかしくなったんだと、俺は思ったよ。

「頼むよ。僕、どうしても目黒さんに会いたいんだ。きっと、一人で寂しがってるよ。僕が行くのを、ずっと楽しみに待ってるはずだよ。助けてくれよ」
そういって、今にも泣きそうな顔で頼むんだぜ。
あんまりうるさいから、その場をごまかすつもりで、軽い気持ちで言ったのさ。

「ああ、いいよ。夜中の三時に、校門の前で待ってるぜ」
ってね。
あいつ、嬉しそうにニタニタ笑ってたなあ。
そういえば、あいつの笑った顔っていうのも、あの時初めてみた気がするよ。
最初で最後の、あいつの笑顔さ。

それで、学校が終わって家に帰って、しばらくの間、俺はその話を忘れてた。
夜中になって、そろそろ寝ようかなって思ったときに、ふと吉岡の顔を思い出しちゃったんだよな。

時計を見ると、夜中の二時。
行こうと思えば、まだ約束に間に合う時間さ。
あいつのニタニタ笑う顔を思い出すと、何だか寝つけなくってさあ。
けれども、今から学校に行くのなんて面倒臭いし。
それに、もしあいつが来てなかったら、馬鹿をみるのは俺だしな。

行くべきか、行かないべきか、俺は悩んだよ。
結局、どうしたと思う?
1.学校に行った
2.学校に行かなかった