学校であった怖い話
>一話目(新堂誠)
>I5
俺は、吉岡の腕を引っ張って、引き止めようとした。
だが、俺の力が強くてあいつはヨロめき、持っていた手鏡を落として……。
夜中の学校だぜ、そこに鏡の割れる音が思い切り響いてよ、吉岡は金切り声、俺も心臓バクバクで、………。
その時、悪魔がスッと消えたんだ。
鏡が割れたから、どこかへ行ってしまった様だった。
俺達は、一目散に逃げ出したよ。
旧校舎を出て校庭を駆け抜けた。
ジャリが靴に入って痛むのが、神経をじくじく刺される様な感覚でやけに気持ち悪かった。
やがて俺達は、校門の外に出た。
そして道路に足を踏み出した途端……!
吉岡が、車に跳ねられたんだ。
いや、正確に言えば、吉岡の手が車輪につぶされたのさ……。
その時の血は、しばらく地面に広がらず、流れるそばから、スウッ、スウッと消えていった。
……やがて、あいつの手の傷口から更に多くの血がどくどく出てきてあいつは何度も叫び声を上げていた。
「やめてくれ!……やめてくれ!!」
その様子といったら……。
吉岡がうめいている間に車は、鏡の悪魔のように、スウッと消えてしまった。
本当に消えちまったんだよ。
あの車は、悪魔の見せた幻だったんじゃないか?
……旧校舎での合わせ鏡は、悪魔を呼び出す儀式だったらしい。
悪魔は、呼び出された代償に、吉岡の血を求めたんだよ。
車の幻を見せ、吉岡の手の血を吸ったんだ。
そうとしか、考えられない。
……。
なぜ、手の血を求めたかだって?
おまえ、知らないのか?
薬指があるだろう。
この指は、心臓に一番近い指だっていうじゃないか。
だから結婚指輪も、薬指にするんだよ。
心臓に一番近い指に、誓いをたててな。
つまり悪魔は、薬指に通る血管に流れる血を飲んでいたんだ。
心臓の血のかわりにな……。
えっ、その後吉岡がどうなったかって?
さあ………。
あいつ、いまでも毎日学校に来ているぜ。
薬指の付け根にまだ傷が残っているがな、
命に別状なかったようだし。
でも、もう俺に話しかけようとしないんだ。
あの日のことを思いだしたくないのかもな。
だけど俺、知ってるぜ。
あいつ、時々今でも、旧校舎の例の鏡で合わせ鏡をしているらしい。
旧校舎だけじゃないぜ、トイレとかいろいろな所で試してるみたいだな。
俺も一度見たし、他にもクラスの奴等が、その場を何度か目撃しているんだ。
思うんだけどよ、吉岡の奴、あの悪魔に骨抜きにされちまったんじゃないのか?
又会いたいとか思ってたりしてな。
それで今度は、血を代償に何か願いでも叶えてもらおうとか思ってんのかもな。
魂でも抜かれなきゃいいけどな。
坂上、七不思議の特集もいいけどな……。
こんな会を開いて、この学校にひそむ魔物にたたられないよう、気をつけろよ。
自分の薬指を見てみろ。
今後そこに怪我をするようなことがあったら、悪魔に狙われてるってことかもしれないぜ……。
俺の話はここまでだ。
次は、誰が話すんだ?
(二話目に続く)