学校であった怖い話
>一話目(新堂誠)
>O5

俺は、その手鏡を見ないようにしようと思った。
だが吉岡が、俺の目の前に手鏡をさし出して……見てしまったんだ。

俺は、吉岡の手鏡に映る自分を見た。
その俺の顔は……。
恐怖にゆがんでいた。
自分がこんな情けない顔をしているのかと思うと恥ずかしくて、俺は顔をそむけようとしたよ。
でも、動かないんだ。

首が動かない。
体も動かない。
金縛りにあっていたんだよ。
まぶたに浮かぶ吉岡の姿は、一向に消えてくれない。

夢を見ているのとはちょっと違う感じだな。
夢みたいに立体的じゃない。
まぶたに吉岡の姿がぺろんと貼りついている様な見え方なんだ。
俺は、生乾きのカサブタをはがすように、吉岡の姿をはがしてやりたかった。
……すると吉岡は、そんな俺の心が読めるようなことを言うんだ。

「気持ち悪いかい?でも君が悪いんだよ。どうして学校に来てくれなかったんだい?」
俺は必死で謝った。
体が動かなくて声も出せないから頭の中で何度も吉岡に許してくれと言ったんだ。

あいつは俺のそんな姿を見て気を良くした様だった。
得意げに、こんなことを言い出したのさ。

「今、旧校舎の鏡の所にいるんだ。君の姿が合わせ鏡の中に映っているよ。この鏡は、霊界への扉じゃなかった。人の心を写すことができる鏡みたいだ。どうやら、夜中の三時三十三分三十三秒に合わせ鏡をして、心を読みたい人のことを思い浮かべるといいらしい。

僕は、来てくれなかった君のことをずっと考えながら合わせ鏡をしたから、今、君の心に入り込んだんだと思う」
俺は、とりあえずほっとしたね。
さっきまでの吉岡は、俺を呪い殺さんばかりの勢いだったからな。
旧校舎で吉岡の身に何か事故があって、化けて出たのかと思っちまったもんな。

しばらくすると、吉岡の姿はぼんやりと消えていった。
「じゃあね、新堂君。このことは僕達だけの秘密だよ。人の心が読める鏡……すごく面白いと思わないかい?」
そんなことを言ってな。

翌日俺が学校に行くと、吉岡は青い顔をしていた。
前の日のことが夢だったかどうか確認しようとして、俺は吉岡に話しかけようとした。
すると、奴は……。
血を吐いて倒れちまったんだ。
吉岡は、病院に運ばれていった。

そこで俺は、旧校舎の例の鏡を調べに行くことにした。
あれは本当に人の心が映せる鏡だったのか?

俺が旧校舎の三階へ続く階段に行くと、踊り場の鏡が前と変わらない姿であった。
吉岡は昨日の夜、本当にここに来たのか?
あれは、俺の夢だったんじゃないか?
数々の疑問を頭にめぐらせながら俺は、踊り場の鏡を隅々まで調べた。

すると、木の枠ぶちの端に、こんな言葉が彫られていた。
「呪いの鏡」………。
それは、誰かのいたずらだったのかもしれない。

だが、吉岡がその日吐血して倒れてしまったことを考えると……。
合わせ鏡をして映った人の姿は、心を読む為のものでなく、呪いをかける為のものだったのではないか。

吉岡は、合わせ鏡に映った俺に呪いをかけなかった為、呪いが自分の身に降りかかり、倒れてしまったのではないか。
そんな気がしてな。
あの鏡は、確かに霊界への扉だった。
「呪い」という霊界への扉だった…………そう思わないか?

吉岡は、あれから学校に来ていないんだ。
俺は、あいつの家に連絡していない。
奴が今、生きているのかどうか確かめるのが怖くてな……。
さあ、俺の話はこれで終わりだ。
次は、誰が話すんだ?


       (二話目に続く)