学校であった怖い話
>一話目(荒井昭二)
>B4

「あんな中に、ボールが入り込んでる訳ないだろうし……、あっ、あそこだ!」
体育館の隅に、ボールが見えます。
彼は走りました。
ボールと彼の間には、まだ建設用具やら、なにやらが乱雑に置かれています。
それらを身軽に避けながら、目標へと近づいていったのです。

と、そのとき
「がくんっっ!」
彼は倒れました。
幸い、転んだだけのようです。
彼は立ち上がると、また走り出しました。
「がくん!」
さっきは、ただ転んだのかと思ったのですが、今度は明らかにわかります。

「誰かが僕の足をつかんでいる!」
そう思った瞬間、彼は再び転んでしまったのです。
床も、ほとんど完成しているように見えましたが、たまたま運悪く仮板として敷いてあった薄いベニヤに足を乗せてしまいました。
バリバリバリバリッ。
「うわーーーっ!!」

彼は、そのまま床下へと落ちてしまったんです。
そして、見えない何本もの手で押さえつけられているかのように身動きがとれません。

しかも、悪いことに彼が落ちた場所には、古井戸が板をはめたまま放置してあったんです。
その板は、不思議なことに彼を迎え入れるようにスッとずれて、何事もなかったように元に戻ったんですよ。

そのおかげで、彼の発見が遅れてしまったんですけどね。
だって、事故で落ちた人がご丁寧にフタをしめていけるわけないでしょう……。

彼は、じめじめした暗く冷たい古井戸の中で、鉄分の出た赤水を毛穴から染み込ませながら、一週間もそのままだったのです。
彼を引き上げたとき、ふのように柔らかく膨れた肌には手形のようなあざがたくさんついていたということです。

そこは、工事で掘り返すまで盛り土がしてあったので、みんな気づかずに上を歩いたりしていたんですねえ。
その上で、不思議なことが起きてもわかるような気もします。

もともと、その古井戸には何かいわれがあったんだと思いますよ。
だって普通、学校を建設する際に埋めませんか?
埋められない何かがあったんじゃないんですかね。

じゃあ、建設会社の方は何でそのままにしていたか? ですか……。
あなた、知らないんですか?
古井戸を埋める際には、いろいろと儀式があるんですよ。
めんどうくさい儀式がね。
結局、黙ってその上に床を作ってしまえばわからないって思って板をそのまま乗せておいたんでしょう。

え、今もそこにあるのかって?
さあそれはどうでしょう。
後で行ってみますか?
たとえ井戸が、なくなっても地縛霊がいなくなるわけはないのですから。

そうそう、そういえば保健の先生が言っていた8月の初めって、夏の高校野球大会の始まる頃じゃありませんでしたっけ?
それに、そのけが人が所属している部活って、みんな野球部なんです。

偶然だと思いますか?
あれ? 誰か、野球部に所属してませんでしたっけ。
さあ、僕の話は、これで終わりです。
次は、どなたですか?


       (二話目に続く)