学校であった怖い話
>一話目(荒井昭二)
>E4

ええ、そんな彼女の思いが通じたんでしょうか、花は枯れることなく、元気に育っていたんです。
それとも、彼女が面倒を見ていたときにくらべたら多少劣るけれども、他の園芸員達も一生懸命に花の世話をしていたせいでしょうか?
本当に、まだ梅雨だというのに、色とりどりの花を咲かせていました。

普通、雨が降ると花はあまり開かず、花が開いたといっても鮮やかな色にならないはずなんですが、彼女の花壇はそんな常識をはるかに越えるくらい見事なものだったのです。

ただでさえうっとうしく、ふさぎがちになるこの季節に、みんなの気持ちが和んでいるのが見ていてわかります。
そんな花達とは裏腹に、彼女の容態は思わしくありません。

仲の良かった園芸部員達が、お見舞いに行くと、
「みんな元気?しおれていない?」
そう、彼女は尋ねました。
自分の体よりも、花のことが心配で、つい話題といっても学校の花壇のことになってしまうのです。

「花はとっても元気で、こんな雨の日もみんな花を咲かせているのよ。不思議でしょ。今は、可愛がっていた紫陽花が満開よ。そうね……、早坂さんが植えたひまわりが咲く頃には、退院できるといいわね。だから早く元気になってね。別名『花壇の番人』がいないと寂しいしね」

彼女は、お見舞いのみんなが帰った後、そっと考えました。
「自分のことは自分でよくわかる。お医者さまよりわかるのよ。本当は自分はもう長くはないってことを……」
そう思えば思うほど、花壇の花達のことを考えてしまいます。

このまま、もうここから出れないのなら最後に花達の世話をしたい。そして、お別れを言いたい、と……。

急いで学校に向かいました。
起きるのさえ、やっとの体でした。
外は、梅雨独特の音も立てないような雨が降っています。
肌寒く、梅雨に良くある冷え込みとは違う、底冷えのする日です。
梅雨ももうじき終わるというのに……。

学校で、花達は待っていました。
「みんな、さよならを言いに来たの……」
雨の中、自分が育てた、一本一本に最後の世話とお別れを言って回りました。

次の日、当番の園芸部員がいつものように花の世話をするために花壇に来てみると、病院のスリッパが落ちています。
まさか、と思い辺りを探してみたけれど彼女はいません。

ふと足下のひまわりの根本が少し変です。
そしてぎょっとしました。
その根元から指が一本見えていたのです。

「早坂さん!?」
夢中で掘り返すと、そこには、満足そうな笑みを浮かべた、すでに冷たくなっている彼女が横たわっていたのです。
そして、まるで彼女から生えているかのように、花壇じゅうの植物の毛細根が毛穴にとりついていたそうです。

どうして、僕がその話を知っているかって?
早坂さんを、花壇で発見した園芸部員って、僕の兄さんなんです。
これは、兄さんから聞いた話なんです。

兄さんは、彼女とよく一緒に花の世話をしていたそうです。
そして、彼女が入院したあとに、代わりに一生懸命世話をしていたのも兄さんでした。

やはり、そこに祟っている地縛霊が彼女を引きずりこんだのだと、兄さんは言っていました。
最初は僕もそう思いました。
けど、それはちょっと違うかもしれないと今では思うんです。

彼女がそれを望んだんじゃないかって……。
彼女、自分の寿命を自分でわかっていたんですよね。
それで、このまま死んでしまうならこの花達の養分になりたいと、本当にそう思ったんじゃないんでしょうか?

その強い思いと、霊的な何かが作用して、あんな形になってしまったんだと僕は信じているんです。

もちろんあの花壇には、今は何も悪いことはありません。
心配なのは、いつか誰かがいたずらに入ってしまうんじゃないかと。
そして、早坂さんが大事に育てた花を踏みにじってしまうんじゃないかと。

その時は……、どうなっても僕は知りませんよ。
だって自業自得ですから。
そういえば不思議なことがもう一つ……。

あなた、『多年草』と『一年草』って知っていますか。
多年草は、その年に枯れても根が残っており、また翌年同じ場所にその植物が育つもので、一年草とは、その年に枯れてしまったら、また種を植えて育てなければいけない植物のことなんですがね……。

早坂さんの育てていた花は、紫陽花の他は全部一年草だったんですが、不思議なことに毎年種を植えなくても同じ花がそこに咲くんですよ。

ほら、窓から見えるでしょう。
あの大輪のひまわりが……。
さあ、僕の話はこれで終わりです。
次は、どなたですか?


       (二話目に続く)