学校であった怖い話
>一話目(細田友晴)
>C4

いくら僕でも、そこまでお人好しじゃない。
大体、中野が脚なんかつかまれなきゃ、こんなことにはならなかったんだ。
見捨てた、なんて人聞きが悪いな。
あそこで逃げなきゃ、二人とも捕まってたんだよ。

だから、僕は逃げ出した。
校庭に飛び出す背中越しに、中野の悲鳴が聞こえたような気がしたけどね。

誰もいない校庭で、僕はしゃがみ込んだ。
やつらは、中野という獲物を手に入れた。
もう大丈夫…………そう、思ったんだ。
中野には、ちょっとかわいそうだったけど、弱肉強食ってことじゃないかな。

実際、それから僕が、あの手を見ることはなくなったし……僕は勝ったんだよ。

満足そうに話していた細田さんの表情が、不意にくもった。
「でも、中野はそれを怒っているんだ」
「え……それじゃあ、中野さんも助かったんですか?」
僕は、驚いて聞いた。

今の話の様子じゃ、中野さんは手の化け物に襲われたということだったのに?
でも、細田さんは首を横に振った。
「いや、あれっきり、中野はいなくなった。あの手に食われたのか、次元の狭間にでも行ってしまったのか…………。でもね、ヤツは最後に、僕に仕返ししていったんだ」

細田さんは、暗い表情で立ち上がった。
「最後に聞いた中野の声は、悲鳴じゃなくて……僕に対する呪いの言葉だったんだよ」

いいながら、細田さんはシャツを脱いだ。
ランニングをまくりあげた背中を、僕たちの前にさらす。

そこには、大きな顔の形のあざがあった。
恨めしそうに眉を寄せ、口をゆがめて苦しそうな表情に見える。

「あの言葉を浴びせられた背中が、こんな風になっちゃったんだからね。誰に聞こえなくても、僕にだけは、この顔の恨みの声が聞こえるんだよ……。
きっと、このまま一生ね」
みんな黙り込んでしまった部屋の中で、細田さんはモソモソとシャツを着込んだ。

「さあ……僕の話は終わりだよ。次は、誰が話す?」


       (二話目に続く)