学校であった怖い話
>一話目(細田友晴)
>D2

「やめようよ。君にだって、あの手が見えるんだろ?」
「……うん」
彼は、小さく頷いた。
やっぱり、彼にも見えていたんだ。
僕たちは、トイレを我慢して試験会場に戻ったんだ。

三時間目は、もう試験どころじゃなかったよ。
脂汗がにじんできて、早く終われって、そればかり願ったさ。
途中で、試験を放棄しようかとも思ったほどだった。
僕は、もう試験なんかどうでもよくなって、歯を食いしばり、ずっと俯いていた。
気が遠くなりそうだった。

その時、突然、斜め後ろで、ガタッていう音がしたんだ。
俯いたまま目だけ向けると、中野が震えながら手をあげていた。
「……先生、トイレに行きたいんです」
ひきつった顔で、声が震えていた。
試験中にトイレに行くことは、この学校では許されないんだ。

トイレに行くものは、試験を終了したものとみなされ、次の試験の時間まで会場への入場も許されない。
君のときも、そうだったろ?
カンニング対策とはいえ、厳しいよな。

僕は、ちらっと中野の答案用紙を見たけど、ほとんど何も書いていなかった。
彼は、今にも泣きそうな顔をしていたよ。
よっぽど我慢していたんだろうな。
まあ、僕も似たり寄ったりだけど。

よっぽど、僕も席を立とうかと思ったさ。
けれど、試験はほとんどできていなかったし、白紙のままじゃあ、さすがに0点だしね。

僕は、中野がトイレに行ったことが逆に励みになって、頑張ったのさ。
間違いでもいいから、とにかく答案用紙を埋めるのに、必死になったね。

不思議と、試験に集中すると、我慢できたんだよ。
新発見だったね。
僕が答案用紙を埋め終わるのと同時に、終了のベルが鳴った。
僕は、急いで席を立ったよ。

トイレへ走る人たちに混じり、僕は走った。
1.さっきのトイレに行く
2.他のトイレに行く