学校であった怖い話
>一話目(細田友晴)
>G5

手がないなら、そんなに怖くない。
僕はトイレの中に入ってみたよ。
使用中の個室まではのぞけないけど、掃除用具入れのロッカーから、ちょっとした物陰まで捜した。
洗面台の下をのぞいた時には、さすがに自分でも、やり過ぎかなと思ったけどね。
だけど、中野はいなかった。
休み時間は少なくなるし、トイレに入ってくる人は変な目で見るし本当にどうしようかと思ったよ。

その時、僕は一つの個室が閉まりっぱなしなのに気づいた。
人が入ってれば、それなりの物音もするはずなのに、気配も全然ない。

中野はこの中じゃないか?
なんの脈略もなく、僕はそう思った。
気分が悪くて、倒れてるのかもしれない。
あわてて、先生を呼んできたよ。
先生が何度も声をかけたけど、やっぱり返事がない。

そこで、先生は椅子を持ってきた。
よじ登って、上からのぞこうっていうんだ。
乱暴だけど、あの場合はしかたないよね。
先生は椅子に上がって、個室の上の隙間からのぞき込んだ。
「うわあっ!?」
そんな悲鳴をあげて、先生は椅子から転げ落ちたんだ。

中で、なにかが起こってるんだ。
自分でも信じられないけど、その時僕は、椅子に飛び乗ったんだよ。

そして、個室の中をのぞいた。
想像に反して、中には誰もいなかった。
中野も、他の誰もね。
不思議に思って見回して、僕は便器に目を止めた。
……正直な話、心臓が止まるかと思った。

便器の中に、中野の顔があったんだ。
首から下はもう、下水管の中に飲み込まれてしまったんだろうか?
影も形もない。
うつろな目が、僕に気づいたようだった。
なにかをいいたそうな表情をしたよ。

その途端、顔の周囲から厚みのない手がたくさん出てきたんだ。
手は中野の顔をつかみ、乱暴に便器に押し込んだ。
そして中野の顔は、ずるっと下水管に飲み込まれてしまったのさ。

サイズが合わないとか、あの手の正体はとかそんな当然の疑問も浮かばなかったね。
僕は、そのまま後ろにひっくり返って、気絶してしまったんだ。
なんとか気がついて、残りの試験を受けられたのは奇跡だよ。

信じられないのも無理はないけど……その時の先生も便器にねじ込まれた状態の中野を見てるんだ。
絶対に、幻覚とかじゃないよ。
それは確かさ。
中野がどこに行ったかは、全然わからないけどね。
僕の話は終わりだよ。
次は誰かな?


       (二話目に続く)