学校であった怖い話
>一話目(岩下明美)
>B7

「いや、もうやめましょう。わざわざ来ていただいたのに申しわけありませんでした。この続きは、また別の機会にしていただけませんでしょうか」
これ以上、僕はこの話を続ける勇気はない。

こんな経験は二度とごめんだ。
悪いけれど明日部長に相談して、この役は誰かに代わってもらおう。
最初に感じていた気味悪い感覚は、岩下さんのことだったのかもしれない。
この学校には、本当に悪霊が潜んでいるんだ。

「そうだな。こんなことがあっては、続ける気にならないよな」
みんなも同じ意見だったようだ。
当然だろう。
はたして、彼らがまた集まってくれるかどうか、僕には疑問だ。
でも、僕にはもう関係のない話だ。

僕は、逃げるようにして学校を出た。
どうやって家まで帰ったのか、よく覚えていない。
でも、こうして家にいるということは、僕が無事帰ってきた証拠だ。

僕は、夜、ベッドの中で考えた。
明日、学校に行くべきか。
僕まで、登校拒否になってしまいそうだ。
あまりの怖さに電気をつけたままの部屋で、なかなか寝つかれなかった。
あのときの岩下さんの顔が焼きついて、頭から離れない。

やっぱり、やめよう。
明日、学校に行くのはやめよう。
やめよう…………。

それでも、僕はいつの間にか眠ってしまった。
……ふと、寝苦しくて目が覚めた。
胸が重い。
胸をぐっと押されているような感じがする。

何か、いる。
僕の部屋に、誰かがいる。
でも、怖くて目が開けられない。
僕の顔に、生暖かい息が吹きかかる。
誰だ?
誰が、僕の胸に乗っている?
体が動かない。

金縛りだ!
まるで蛇の舌が僕の顔をなめるように、生暖かい息が万遍なく僕の顔に吹きかけられる。
その息は、僕の耳元で動きが止まった。

何か、呟いている。
ぼそぼそとよく聞き取れない声が、僕の耳に忍び込んでくる。
その声は、次第に大きくなっていった。

「殺してやる……殺してやる……」
生暖かい息が吐かれるたびに、呪いの言葉が僕の耳をなでまわす。
「うわあっ!」
僕は、あまりの怖さに目を見開いた。

そこに、彼女はいた。
カッターを手にした岩下さんが、僕の胸の上に乗っていた。
「私にもね、悪霊が取りついてしまったの。
だから、私は戦ったのよ。おかげで、私も悪霊から解放されたわ。次はお前の番だ!」

彼女の喉は、ぱっくりと割れていた。
そこからポタポタと滴る血が僕の顔を濡らす。
キチキチキチと嫌な音がして、カッターの刃がキラキラと光った。

僕は、逃げられない。
岩下さんの手が振り上げられた。
彼女の顔は、悪霊そのものだった。
きっと、僕も悪霊に好かれてしまったんだ。

それが、僕の最後の意識だった。
僕は、自分の喉から吹き上がる血しぶきを見ながら、最後の意識を途絶えた……。


そしてすべてが終った
              完