学校であった怖い話
>一話目(岩下明美)
>D8

そうね。
内山くんも、そう思ったの。
悪霊なんていないって。
そして、変わろうと思ったの。
今の自分を変えて、違う毎日を送ろうと思ったの。
そしたらいつしか悪霊を見ることもなくなってね。
内山君は、自分の結論が正しかったと確信したわ。

どう?
内山君は変わったなって、思わなかった?
そこまで話すと、
岩下さんは、ふうっと白い息をはいた。
白い息?
冬でもないのに。
………どこかで見たことがある。
こういう白い息を。

内山君だ。
内山君が、よく白い息をはいていた。
彼がいじめられていたころ。
暖かい春のころ、教室で。
内山君の席は窓の側だった。
僕は、内山君の呼吸で飛ばされたホコリが、窓から入る光に照らされて、白い息の様に見えているのだと思っていた。

しかし、彼女のこの息は……?
「私は、悪霊がいるって信じるわ」
岩下さんがつぶやいた。
白い息をはきながら。
「悪霊は、もう内山君には手出ししないって。
内山君、強くなっちゃったんだもの。
精神的ね。
そういうの、つまらないんだって。

悪霊ってね、
怖がりな人につけこむんだって。
私も怖がりだから、心配だわ」
彼女は白い息をはきつづける。

「あなたは?
あなたはどう?
あなたは、怖がりかしら……?」
彼女は、手に息を『はあっ』とはきかけ、その手を僕の頬になすりつけた。

「どうしたの?」
彼女が、僕を見つめて言う。
怖がっているの?
いいわよ。
もっと怖がって。
悪霊はいつでも、怖がりな人をねらっているの。
悪霊がそばにいる時って、霊感のある人の口から、白い息がでるんですって。

どう、私の息、白く見える………?
逃げようとしても、だめよ。
次の話を聞かなきゃね。
ふふふ……。
……さあ、次は、誰の番?


       (二話目に続く)