学校であった怖い話
>一話目(岩下明美)
>E9

そうね。
内山くんは、思ったの。
いくら彼女を愛してたって、事実はまげられないってね。
でも内山くんは、彼女のことを見捨てるわけにはいかなかった。
だから思ったの。
愛する彼女の為に、何でもしようって。

そこで内山くんは、彼女に手紙を書いた。
毎日、毎日、手紙を書いたの。
あなたには悪霊が取りついています。
でも、僕が守ります。
僕はあなたを愛する者ですってね。

内山くんは、自分の名前を書かないで手紙を出した。
でも、わかるでしょ。
この内容を読んだら、誰が書いたのか分かるじゃない。
彼女は怖がって、みんなに相談したの。
……そしたらどうなったと思う?

いじめっ子達が内山君をかこんでいやがらせはやめろって責めたてたの。
場所は、どこだったかしら。
ああ、そう。

旧校舎の、階段でよ。
あそこは人が来ないから。
「それは、本当ですか?」
ぼくは、身をのりだした。
これは、今日の話に違いない。
昼休みのことだ。

しばらく内山君を無視していたいじめっ子達が、彼のことを呼び出していた。
その後、内山君は次の授業に出ていたが、いじめっ子達は帰って来ていない……。
みんな、彼らは授業をサボっているのだと思っていた。
しかし……。
何だろう、この胸騒ぎは。

「知りたい?」
岩下さんが言った。
「内山君をいじめた人達が、どうなったか知りたい?」
………。
誰かの泣き声がしたように思ったのは、気のせいだろうか。

「悪霊はいたのよ」
岩下さんが言った。
「悪霊は本当にいたの。
いじめっ子達が久しぶりに内山君を責めるのを見て、興奮したのかもしれない。

現れたのよ、その場に。
旧校舎の、階段にね。
いじめっ子達は、それはもう驚いたわ。
金切り声を上げてね。
内山君は悪霊の存在を知っていたから、いじめっ子達ほどは慌てなかったけどね。
でも、その時、悲劇はおきたの。

驚いたいじめっ子の一人が、階段から……。
打ちどころが悪かったみたい。
内山君がかけつけると、その子はもう息をしていなかった。
内山君は、どうしようって思ったわ。
でも、誰にも言えなかった。

だってそうでしょ?
誰も内山君の話を信じてくれないんだもの。
悪霊の存在を、否定するんだもの。
だから内山君は、黙って一人で授業に戻ったの。

いじめっ子の一人は、いまでも階段で倒れているはずよ。
誰にも発見されなければね。
……残りのいじめっ子達は、どうしたかですって?

さあ………。
悪霊にでも、連れて行かれたんじゃない?
悪霊って、内山君みたいなちょっと気の弱い人も好きだけど、いじめっ子の様な、気持ちのまがった人も大好きなんだから……。

え?
どうして私がこんな話を知っているかですって?
ふふふ、それはね………」

岩下さんの体が、青く光り始めた。
何だ?
何が起こった?
泣き声がする。
誰かの泣き声が。

岩下さんが、立ち上がった。
青い光が岩下さんの体から離れ、上へ昇っていく。
泣き声は、更に大きくなる。
まるで、助けを求めているかのように……。

泣き声がやみ、青い光が窓から出ていくと、岩下さんは床にたおれこんだ。
驚いて皆でかけ寄ると、彼女は妙なことを言った。

「ごめんなさい。目まいがして……初めの話は私からよね。
そうね、なにを話そうかしら」
みんな、顔を見合わせた。
いままで散々話していたのに、彼女は何を言っているのだろう。
それにあの青い光は?
あの、泣き声は?

「悪霊か?」
誰かが言った。
「まさか、今の話の悪霊が、彼女に乗り移って……」
そうか……。
それならつじつまはあう。
あの青い光は、悪霊の姿なのか?
ではあの泣き声は?
「今の話だと、残りのいじめっ子達は、悪霊に連れて行かれたって……」
あの泣き声は、いじめっ子達の……?
凍った空気が流れる中、誰かが言った。

「やっぱり、この学校には何かいるんだよ。
でも、今の話、どこまで本当なんだか……。
俺はさっき、ネタを探し歩いて旧校舎にも行ったが、倒れていた奴はいなかったぜ。

悪霊が、死体ごと奴を連れていったのか、今の話自体、悪霊の作り話なのか……。
まあ、とにかく次の話に行こうぜ。
次は、誰が話すんだ?」


       (二話目に続く)