学校であった怖い話
>二話目(新堂誠)
>A6

「ふぉふぉふぉ、正直でよろしい。わたしゃ、素直な子が好きじゃからの」
そうやってニヤニヤ笑ったんだよ。
ばあさんてよく見ると、噂以上にきったねえんだよな。
目やにが溜まっててさ、歯には歯垢がびっしりとこびりついていて、焦点の合わない目で見られると、思わずぞーっとするんだ。

だんだん、我慢できなくなってきて思わず、
「なんでもいいから、早く飴玉をくれよ。そのために、俺の前に現れたんだろ」
っていっちまったんだよな。
「せっかちな子じゃのう。じゃあ飴玉をあげようかね。でものう……」

言い終わらないうちに、佐久間は飴玉を奪うようにして走って逃げたのさ。
「せっかく注意してやろうと思ったのにのう。まあ、自分で身をもって体験するとええ。ひひひ」

佐久間は、飛ぶように家に帰ると自分の部屋に鍵をかけた。
ドキドキした心臓を、落ちつかせるように深呼吸して、飴を包みから出すと一気に口に入れた。

「……う、うまいっ!! たまんねえよ!! こ、この味!!」
しばらく舐め、いつものくせでがりっと噛み砕いて全部食べてしまったんだ。
実はさ、ばあさんがあのとき言おうとしたのは、この飴を最後まで噛み砕かずになめること……、だったんだ。

もし噛み砕こうものなら、その人は味覚がおかしくなり、何を食べても一生その飴玉の味しかしなくなるということなんだ。

辛抱する、ということを知らない佐久間には、ちょっと無理だったと思うよ。
たとえ、ばあさんにそのことを教えてもらっていてもね。
ちょっと我慢すれば、一生幸せに暮らせたかもしれないのにさ。

それから、ばったりと飴玉ばあさんを見なくなったんだ。
また、次の学校へ行ってしまったのかもしれない。
佐久間というと、おいしい物、新鮮な物、まずい物、腐ってる物何を食べてもあの、飴玉の味がしてとうとう気が変になってしまったよ。

だって、いくら飴玉がうまいっていっても、みんなその味じゃ、いくらなんでもねぇ……。

ついには、自分の舌をカッターで切っちまったんだってさ。
そして、以前飴玉をもらったことがあるやつをトイレに呼び出し、
「お願いだよ舌を交換してくれよ。もう飴玉はさんざんだよ」
というなり、そいつの舌をつかみ出し、カッターですぱっと切っちまったんだぜ!

佐久間はポケットから、自分の腐ってウジのわいたそれを取り出し、切った舌先に縫いつけてしまったんだ。
赤い木綿糸で……。

もちろん切り取った彼の舌も、自分の腐りかけた舌先に縫いつけたさ。
そして、鏡に向かって舌を出し、
「これで、もうあの飴玉の味を味わなくていいんだ。あはははは」

なま暖かい生臭い液体でぬるぬるする舌を、ぺろぺろ出しながら廊下を走っていった。
廊下の向こうから、彼が疾走してくる姿を見てしまった生徒は、その場で腰を抜かして動けなくなってしまったんだ。

「ひっ、ひいーー!!」
すれ違いざま佐久間に顔を一舐めされ、生徒はその後どうなったか覚えていなくてさ、気がついたら保健室のベッドに寝かされていたそうだ。

「何か様子が変だ」
その生徒は、ベットからゆっくり身を起こすと、水を飲みに立ち上がったんだ。
水道の蛇口をひねり、コップで水を飲もうとした瞬間……。
思わずコップを落としてしまった。

目の前の鏡に映った口の中には、自分のものじゃない舌が赤い糸で縫いつけられていたんだ。
そしてその後ろで、佐久間が、赤い舌をぺろぺろ出して笑っていたんだそうだ。

そうそう、学校で飴をなめてると佐久間に舌をすげ替えられてしまうらしいぜ。
「そんなに飴がなめてえか?」
って、いいながらさ……。
もし、佐久間にこういわれてしまったらどうするか……。

その時なめている飴を、思いっきりかみ砕くんだ!!
もし、そうしなかったらお前も舌を切られちまうぜ。
……俺の話は終わりだ。
次の奴に話してもらおうぜ。


       (三話目に続く)