学校であった怖い話
>二話目(新堂誠)
>F5

「いいわよ。
ねえ恵利子覚えてない? あのおばあさん。あのときおばあさんからもらった、飴玉のおかげなのよ」
と、飴を食べてからのことを全部話したんだ。
「そう、そうなの」
にやりと、原が笑う。

それからさ、原は来る日も来る日も、飴玉ばあさんを校門で待ち続けたよ。
雨の日も、風の日もそれこそ雪の日も電柱の物陰に隠れて待ってたんだぜ。
そいつ、それだけの根性があったんなら、もっと自分を磨くのに時間をかけて、もっとキレイになれたのにな。

原は待った。
必死に待ち続けた。
「今日も駄目だったわ……」
陽も完全に、落ちちまって、もう学校から帰る生徒もいなくなった。

原は、また明日に望みを託して、家に帰ることにしたんだ。
「お前さん、一人かえ?」
帰ろうとしたら、突然、後ろから声をかけられたんだ。

振り向くとそこに、赤いフードを目深にかぶったばあさんが立っているじゃないか。
飴玉ばあさんだ。
さっきまで、誰もいなかったのに、煙のように現れたんだ。

「あ、あなたが、飴玉ばあさんね!」
ばあさんは、すすっと原に近づきイボのある鼻を押しつけるように言ったのさ。
「……いっひっひ、……いかにも。お前さん、ワシのことを待っておったんじゃろ?」
「……別に。私はただ、ふらっとしていただけよ」

かわいくない性格の原のことさ、つい強がりを言ってしまったのさ。
それでも、ばあさんは全て見通しているかのように、笑ったんだ。
「そうかい。そういう子があたしゃ好きなんじゃよ。こんなにかわいいのに、性格は裏腹でのう。容姿だけが取り柄じゃて」

原は、思わずむっとしたさ。
「可愛くないのは、どっちよ。どうでもいいから早く飴玉をよこしなさいってば!!」
原は、飴玉をばあさんのかごからむしり取るようにして逃げたんだ。
「おやおや、せっかちな子じゃのう。まあ、それもあの子の運命じゃて……」

家に帰った原は、急いで自分の部屋に行き鍵をかけたんだ。
「みんなの驚く顔が、見たいわ。ふふっ」
そして、飴玉をゆっくり舐めた。
数日後のこと……。

「なんか、恵利子変わったわね」
「ホント、なんかイヤな感じ」
原はどうなったかって?
彼女、目はつり上がり口は、への字形になって眉間には、縦じわがより意地悪そうな顔に変形してしまったそうだ。
まるで、腹の心のようにね。

ばあさんがみんなにあげる飴って、種類があるらしいね。
その人にあった飴ってのを、ばあさんが選んであげるんだそうだ。
だから、みんなそれなりにうまくいってるんだろうな。
原が、ばあさんのかごからむしり取っていったのは、心がそのまま自分の姿に現れてしまう効果の飴だったらしい。

笑っちゃうよな。
片桐も、同じ飴をなめたのにさ。
それから、ばあさんはぱったりと姿を現さなくなったそうだ。
原は、その後どうしたかって?
整形して、やっと自分の顔を取り戻したそうなんだけど、そのことにえらく感動しちまってな、心を入れ替え一生懸命に勉強して医大に進んだんだって。

なんでも、自分も、整形外科の医者になりたいとのことでな。
今じゃ、原先生っていったら、日本で五本の指に入るくらい有名になっちまったってさ。
これも、あのばあさんのお陰って言えばお陰なんだけどね。
でもさ、そんな飴あったら面白いだろうなあ。

先生や、友達や、恋人に舐めさせてみたいだろ。
ホントは、どんなやつかって知りたいよな……。
……俺の話は終わりだ。
次の奴に話してもらおうぜ。


       (三話目に続く)