学校であった怖い話
>二話目(荒井昭二)
>G5

バリバリバリッ!
「しまった!」
先生の足は、廊下の床を突き破ってしまったんです。
足を抜こうと引っ張ると、折れてギザギザになった木片に突き刺さってしまいます。
もう、床を突き破った際に切れた足から血がにじんでいます。

しかし、何とか引き抜かないと、このまま身動きがとれないのではどうしようもありません。
先生はもがきました。

ふと、顔を上げると廊下の向こう側から何かもやっとしたものが見えます。
「煙か?」
そういえば、さっきからいぶしたような臭いがしているような気もします。
けれど、そのもやもやは煙ではないようです。

懐中電灯を、つけていないのにそこだけはっきり見えるんです。
よく見ると、何かがうごめいているようにも見えます。
それは、だんだんこちらに向かってくるようです。
「侵入者か?」

先生は、足を引き抜こうともがきますが、傷をひどくするだけで、あせればあせるほどよけい抜けなくなるようです。
そして、廊下の向こう側をもう一度見てみました。

今度は、はっきりと見えます。
明らかに人のようです。
這いながら、こちらに向かっているようです。
なぜ、旧校舎に人が這いながら徘徊しているのか……。

ひょっとしたら、これは人間じゃないのではないか?
イヤな考えが、先生の頭をよぎります。
本当の人間でも嫌ですけどね。
そんなことを考えているうちに、それはどんどんこちらに近づいてきます。

スルスルスル、ズル……、ズル、スルスルスル……。
よく見ると、男性のようです。
ニヤニヤ笑って、ときどきふと進むのを止めると、目を大きく見開いてこちらを凝視しています。
身動きがとれないし、もうどうしようもなくなった先生は、

「ぐっ!!」
目を固くつぶり、じっと身体を縮こまらせました。
……あれから、しばらく経ったように思えます。
「変だ、何も起きない……」
先生は、恐る恐る目を開けます。

すると、さっき廊下を這っていた男性がどこにも見えません。
「暗闇でも、はっきり見えたのに……」
ホッとして、その場にへたり込んでしまいました。
先生は、手に持っていた懐中電灯をつけて、足元を照らしました。

「ひどいな、血がこんなに出て……」
そして、足を穴から思いっきり引き抜こうとした瞬間、スポッと思いがけず簡単に抜けてしまったんです。
先生は、勢い余って後ろに転げると、柱にぶつかってしまいました。
「いてて……、踏んだり蹴ったりだな」

そして起きあがろうとしたその時、

さっきの笑い男の男性が真上から覗き込んでいたんです。
「ひっ!!」
先生は叫ぶこともできず、その男性の顔から目を離すことさえ出来ません。

男性は、笑っていたかと思うと、急に目を見開き先生を凝視したんです。
その目は、普通の人間よりもはるかに大きく淀んでいて、その白目には血走った毛細血管が走っており充血しています。
いきなり、そいつは顔を近づけてきました。
そしてどんどん顔は近くなります。

「ひいいいーーーーーーー!!」

翌朝、桜井先生は旧校舎の廊下で発見されました。
旧校舎の廊下を、四つん這いになって笑いながら行ったり来たりしていたそうです。
桜井先生は、治療のため病院に入りました。

治療はなかなかはかどらず、ほとんど回復の見込みはないそうです。
後で聞いた話ですが、昔まだ旧校舎が使われていた頃、ぼやが起きたことがあったそうです。
ぼやだったのにもかかわらず、運悪く用務員さんが煙に巻かれて亡くなったそうです。

なんでも、用務員さんは気管支を患っていたそうで、煙を吸い込んで発作を起こしてしまったんでしょう。
一生懸命煙を避け、低い姿勢で逃げようとしたんでしょうね。

桜井先生が見たのは、多分その用務員さんの霊でしょう。
ぼやだったにもかかわらず、命を落としてしまったことが恨めしかったんでしょうか。

そういえば、旧校舎ももうじき取り壊されるようですね。
何も、起きなければいいのですが……。
……僕の話はこれで終わりです。
ありがとうございました。


       (三話目に続く)