学校であった怖い話
>二話目(細田友晴)
>A4

「本当に、何もないってば。気にし続けると何でも怪しく見えるんだよ」
こういう時は、嘘をつき続けた方が親切だと思わないかい?
だから、僕はそう押し通したんだ。
女の子たちも、しまいには納得していたよ。
それで、なんとか僕は巻き添えを逃れたってわけ。

細田さんの話が終わった。
僕は尋ねてみた。
「壁の染みは、そのままなんですか?」
「当たり前じゃないか。だって、僕に何ができたっていうんだい?」
細田さんは気を悪くしたようだ。
でも、構ってなんかいられない。

「それじゃあ、そのトイレで、いつ何が起こるかわからないってことじゃないですか!」
いくら何でも、無責任すぎる。
僕は、細田さんに食ってかかった。

「何かあったら、細田さんの責任ですよ!」
言ってから、これはちょっと言い過ぎかなと思った。
こんなことを言われたら、どんなに温厚な人だって怒り出すだろう。

ところが、細田さんは怒るどころかニヤニヤと笑っている。
「何かあったら? どんなことが起きるというんだい」
…………何かがおかしい。
頭の中で、警報が鳴り出した。
その時。

ガターンと大きな音がして、部室のドアが開いた。
僕たちがハッと振り向くと、泣きべそをかいた、知らない女生徒が立っている。

「細田君! あのトイレで……
……とうとう大変なことが起きたのよっ!!」
細田さんが、素早く立ち上がる。
例のトイレに行くのかと思ったら、女生徒の目の前でドアをぴしゃりと閉めてしまった。

「ほ、細田さん!?」
信じられない行動に、僕は思わず叫んだ。
細田さんは振り返って、ニヤッと笑った。
「……すごいや、坂上君。君のいう通り、本当に『何か』が起きたようだね…………」

なんで、そんなに落ち着いてられるんだ?
「そ……そんなことより、行ってあげなくてもいいんですか?」
「大丈夫だよ。ほら、もう声は聞こえないじゃないか」
ドアの向こうはシーンとしている。

あの女生徒は行ってしまったのだろうか?
どうして?
いや、どこへ?

僕の混乱をからかうように、細田さんはウィンクした。
「話を続けよう。この先、もっとおもしろいことが起きるような気がするんだ。もっとおもしろくて、取り返しのつかないようなことが」
誰も、嫌だと言い出さなかった。
細田さんに気を呑まれてしまって言えなかったんだ。

今までとは明らかに違う雰囲気の中、細田さんは席に戻って、ひじを突いた。
こわばった表情の、僕たちを見回す。
「さあ……次は誰が話す?」


       (三話目に続く)