学校であった怖い話
>二話目(細田友晴)
>C8

「西条って人がどうなったのか、全然わからないんですか?」
僕の問いに、比田先生はニヤッと笑った。
「知るものですか。どこかで、のたれ死にでもしてると嬉しいけど」
僕はあぜんとした。

比田先生は、まるで人が変わって見えた。
スイッチを入れ替えたみたいにね。
僕が何も言わないでいると、先生がフラッと立ち上がった。
「染みをなめさせられた女の子はね私なの……まだ学生だった頃の私」

そう言いながら、先生はタオルの包みを取り上げた。
中から出てきたのは、良く切れそうな包丁だったよ。
それでも、まだ僕は、何が起きているのか、わからなかったんだ。
だって、相手は先生なんだよ。
でも、その比田先生は、包丁を僕に向けた。

「西条の顔の染みは、私の呪いだったのよ。
あの染みをなめてから、人を呪う不思議な力が芽生えたのね……」
恐ろしいことを、先生は実に淡々としゃべっていたよ。

よく知ってる先生のはずなのに、まるで初めて会った人みたいだった。
「それから、私は憎い相手を呪ってきたわ。私に呪われた者は、きっと病気になったりケガをしたりした。
だから、私はあの染みをなくすわけにいかないのよ!」

包丁が、ヒュッと僕の腕をかすめた。
痛いというより、熱いって感じだったな。
僕はドアに飛びついたよ。
でも開かないんだ。

「鍵をかけたのよ、お馬鹿さん。私からあの染みを取り上げようとするヤツは、誰でも殺してやる!!」
比田先生の顔は、また般若になっていたよ。
「さあ、覚悟しなさい!」

先生が包丁を振りかざした。
人間とは思えない形相の比田先生が、僕に向かって突っ込んでくる。
僕はギュッと眼をつぶって、かがみ込んだ。

背中に、ドンッと強い衝撃!
ガシャーンという音は、きっと僕の人生が終わった音。
僕は死んだんだ。
さようなら、父さん、母さん!
………………それから、ハッと気がついた。
僕は、死んでなんかいないってことにね。

恐る恐る目を開けた僕の前に、力無く垂れ下がった、スカート姿の下半身があった。
上へと視線をたどると、上半身はドアのガラスをぶち破って、飛び出しているんだよ。

ぽた……ぽた……と、なま暖かい血が僕の顔に落ちてくる。
のぞき込んでも、恨めしそうな比田先生は、白目をむいたまま動かない。

ガラスの破片で、頚動脈を切ってしまってたんだって。
それからが大変だったよ。
僕は腰が抜けちゃって、宿直の先生が見つけてくれるまで、比田先生の死体と二人っきりだったんだから。
比田先生は、結局ノイローゼってことになったらしいよ。
まあ、真面目な人だったしね。

あの染みがどうなったかって?
実は、まだ同じ場所にあるのさ。
最近は、染みに近づくと、女の泣き声が聞こえる……なんて、新しい噂までできたみたいだよ。
その声が、比田先生に似てるって人もいるけどね。
女子トイレの中なんて、もうゴメンだよ。

僕の話は、これで終わりだよ。
さあ、次は誰だい?


       (三話目に続く)