学校であった怖い話
>二話目(細田友晴)
>K2

やっぱり、そうだよね。
女子トイレなんて、抵抗あるもんな。
さっきも言ったように、全然霊気は感じなかったんだし。
だから、僕は中には入らなかった。
何とか女子も、理解してくれたよ。

でも、一人だけわからず屋がいた。
「入ってもみないで、なんでわかるのよ? あんた、本当に霊感あるの!?」
さすがの僕もちょっとムッとした。
でも、しょうがないじゃないか。
本当に感じないんだものな。

そう言ったら、彼女はつんと胸を反らした。
「あたしは、ちゃんと感じるわよ」
あんまり偉そうなもんだから、つい僕も余計なことを言っちゃったんだ。
「じゃあ、君が調べればいいだろ!」
「ええ、そうさせてもらうわ」

…………売り言葉に、買い言葉ってヤツ?
その子、一人で入るって言い出したんだ。
そうなると、やっぱり心配だよね。
その子は帰れって言ったけど、僕と他の女子は、トイレの外で待機することにしたのさ。

他の子に聞くと、その子は富田っていって、自分には霊感があると、いつも自慢してるって話だった。
ところが、いつまでたっても富田さんは出てこない。

不安になった僕たちは、トイレの中をのぞいてみたんだ。
「何してんのよ」

入り口の手前に、いつの間にか富田さんが立っていたんだよ。
得意そうに、にっこり笑っていたっけ。
「やっぱり霊の仕業だったわ。でも安心してちょうだい。あたしが除霊しておいたわ」

女子たちは、窓際のトイレに駆け寄った。
僕も、その後ろからのぞき込んだ。

壁はきれいなもんだった。
染みを見てない僕には、そこに染みがあったなんて信じられないくらいにね。
女子はみんな、「信じられない」を連発していたよ。
でも、霊感があるだけのシロウトが除霊なんてできるものなんだろうか?
僕が、そう首をかしげた時。

「ギャアアアアーーーーッ!!」
突然、獣のような叫びをあげて、富田さんが一人の女子に飛びかかった。
馬乗りになって、首を締めつけている。
僕はあわてて、富田さんの肩をつかんだ。

……心臓が止まるかと思ったよ。
富田さんの肩から、ものすごい霊気が流れ込んできたんだ。
普通の霊気とは違う、怨念さえ感じられるような陰湿なものだった。
僕は思わず、しりもちをついた。
その横で、女子が悲鳴をあげた。
「と……富田さんの手が!!」

同時に、僕も気づいた。
友達の首を絞める彼女の手には、人の顔のような染みが、クッキリとついていたんだ。
富田さんは取りつかれたんだ!
そう知った僕は、掃除用具入れからモップを引き出した。
彼女を殴って気絶させようと思ったんだ。

僕が振りかぶった瞬間、形相の変わった富田さんが振り向いた。
富田さんは、今度は僕を狙って飛びついてきたんだ。
もう駄目だと思ったね。
でも、その次の瞬間、女子の一人が富田さんにモップを食らわした。
富田さんは、ぐったりと気絶した。

……つまり情けないことに、僕は女子に助けてもらったってわけさ。
騒ぎに気づいた先生たちが駆けつけて、富田さんを連れていったよ。
僕たちも、いろいろ聞かれた。
できるだけ正直に話したけど、信じてもらえなかったみたいだ。

富田さんは、その日を境に学校に来なくなったよ。
どこかの病院に入ったとか、全寮制の学校に転入したとか、いろんな噂があったけどね。

本当のこと?
僕が知ってるはずないだろう。
でも、あの染みがまだ、彼女の手に残ってるとしたら…………。
染みは彼女を支配し続けて、とんでもないことをさせようとしているかもしれない。

……でも、それはないと思うな。
だってね、今年に入ってから、また女子が僕のところに来たんだ。
あのトイレの同じ場所に「染みが復活した」……って、教えてくれるためにね。

そう、あの染みはまだ、あそこにあるんだ。
きっとまた、富田さんみたいな犠牲者を待っているんだよ…………。
これで、僕の話は終わりだよ。
三話目は、誰が話すのかな?


       (三話目に続く)