学校であった怖い話
>二話目(岩下明美)
>A11

ふざけないでよ。
あんた人の忠告はきくんでしょう。
そういったじゃない。
なんで振り向くのよ。
もうだめよ。
あんたは、振り向いてしまった。

殺してやりたいわ。
ええそう、殺してやりたい。
あんたは振り向いた。
彼女の正体を見る為に。
そしたら、なにかが落ちたの。

そういう音がしたのよ。
同時に、背中が軽くなった。
背負っていた彼女が落ちたのね。
あんたは床を見たわ。
そこには……。

肉片のこびりついた、がいこつがいたの。
あんたは、がいこつを背負っていたのよ。
どうしたの?
怖いの?
でもだめよ。
あんたはもうだめ。
だって、嘘つきなんだもの。

殺さなきゃ。
私、あんたを殺さなきゃ。
あんたが振り向いたから、殺してやるのよ。
ほら……。
聞こえるでしょう?
がいこつの声が。

あんたを呪う、がいこつの声が。
この廊下は、霊気に満ちている。
学校で死んだ人の霊が集まる場所だから。
この学校は広いから。
学生もいっぱいいるから。
校内で事故にあう人もいる。
そうして死んだ人もいる。

そういう人は、自分の死を認めたくなくてなかなか霊界にいけない。
そうしてこの廊下にとどまるのよ。
だって、この廊下は、長いでしょ。
長いってことは、面している教室も多いってことよ。

教室が多ければ、人もよく通る。
人通りが多い場所だから、自分の存在に気付いてほしい霊が、たくさんあつまったの。
だからここでは、不思議なことも起こるのよ。
霊がたくさん集まっているから、多少次元が歪んでいてね。
霊界に通じる『道』もできているのよ。

そして、そこに人を引きこむ霊もいる。
なかにはそういう霊もいるの。
その霊は、人を霊界への道に引き込んで、永遠に続く廊下の幻を見せるのよ。
坂上修一君。
あんたも迷わされた一人だったの。

あんたが助けようとした女の子は、むかし迷わされた人だった。
永遠に続く廊下の幻を見たから、霊界への道を行ったり来たりしていたの。
迷って餓死して、それでもなお抜け出そうとして、何年もさまよっていた人なのよ。

だから、足が痛かったの。
痛くて、歩けなかったのよ。
それなのに、あんたは彼女のいうことをきかなかった。
殺さなきゃ。
そんな人は殺さなきゃ。
ほら……。
声がしない?

女の子の声が。
それとも老婆の声かしら?
あんたがおぶっていた、女の子の声がする。
ほら……あの、甲高い声。

あれは、彼女の声。
自分が迷って死んでしまったことを、悔しがっている声よ。
生きているあんたが、うらやましいって。
あんたの首を絞めてやりたいって。

私もそう思うわ。
あんたの首を、絞めてやりたい。
うふふ……。
女の子は、学校の廊下に戻りたかったの。
だって、誰にもお別れをいってなかったんだもの。
ある日突然、この廊下に迷いこんでしまったんだもの。

そして、死んでしまったのが悔しかったんだもの。
黙って霊界にはいけないわ。
ほら……。
彼女は、歩き始めた。
見えるでしょ。
肉片のついたがいこつが歩いてる。

彼女、やっぱり自分で歩くって。
あなたとは一緒にいけないって。
今、この廊下の出口が見えたんだって。
足は痛いけど、歩くって。
あら……あなたには、出口が見えないの?
じゃあ、さまよいつづけるがいいわ。

彼女と同じくらいの年月さまよい続けたら、いつか出口が見えるようになるかもね。
ああ……行ってしまった。
もう、彼女の姿は見えない。
彼女、廊下から出られたのね。
でも声はとどくわ。

耳をすませて。
聞こえるでしょう?
「永遠に出れずに死ぬがいい……」
聞こえた?
聞こえたわね。
あんたは、殺されるの。
彼女に見捨てられて、殺されるのよ。

坂上君。
あんたは…………………………… ……………………………………… ……………………………………… ……………ごめんなさい。
あんたの話じゃなかったわよね。
もう一人の坂上君。

そう、もう一人のあなたの話だったのよね。
その後彼は、永遠にあの廊下をさまよい続けたの。
彼女の忠告をきかなかった罰ね。

翌日、例の廊下で彼女の白骨死体が見つかったそうよ。
彼女は、干からびた骨の口をカタカタいわせながら、ことの一部始終を語っていたらしいわ……。
そういえばあなた、一年E組っていってたわね?

確か、あの教室って三階よね?
長い廊下の端にある、あの教室がE組じゃなかったかしら。
気をつけた方がいいかもね。
今後なにか、危ない目にあうとも限らないから。
うふふ……。
私の話は、これで終わり。
次は、誰の番かしら?


       (三話目に続く)