学校であった怖い話
>二話目(岩下明美)
>F13

それでも、振り向かなかった。
彼女の忠告を聞いたから。
彼女との約束を守ったから。
「キィーーーーーッ!」
突然、耳をつんざくような甲高い声が響くと、あんたの首に絡みついていた細い指に力がこもったんだ。

「やめてくれっ!」
あんたは、そう叫ぶのがやっとだった。
……そして意識が遠のいていった。
…………ごめんね。
あんたじゃなかったわよね。
もう一人の坂上君。
そう、もう一人のあなたの話だったわね。

彼が気づいたのは、次の日の朝だった。
同じクラスの生徒に助け起こされたの。
「どうしたんだ、お前。何で、こんなところで寝てるんだよ」
そう言われても、彼はなんて答えていいのかわからなかった。
意識がはっきりするにつれ、慌てて廊下を見回したの。

廊下は朝の光を受けて、はっきりと見えたわ。
いつもの廊下がそこにあった。
端から端まで見通せる、いつもの廊下が。
そして、自分は教室の前に倒れていたの。
「……助かったんだ」
そう呟くのがやっとだった。

夢だったのかもしれない。
勉強で疲れて、悪い夢を見たのかもしれない。
級友は、彼のことを変な目で見ていたわ。
そして、言ったの。
「お前、どうしたんだよ。首に、変な痣がついてるぜ」

言われて、鏡で確かめたわ。
首には、まるで絞められたような指の跡がしっかりとついていたわ。
結局、なぜ廊下があんなに長かったのか、わからずじまいだったわ。
そして、彼が背負ったのは何だったのかもね。

後ろを振り向けば、正体はわかったかもしれない。
代わりに命がなくなったかもしれないけど。
首の痣は一ヵ月ほど消えなかった……。
それでも、彼は助かったの。
最後まで約束を守ったおかげかもしれないわね。

あなた、一年E組って言ってたわよね?
確か、あの教室って三階よね。
長い廊下の端にある、あの教室がE組じゃなかったかしら。

でも、大丈夫よ。
あなたは、約束を守り、忠告を聞く優しい人ですもの。
私は、いつまでもそれが変わらないことを祈ってるわ。
人間って、よく気が変わる生き物だから。

……うふふふふ。
気をつけなさいね。
これで、私の話は終わり。
さ、次に話すのは誰?


       (三話目に続く)