学校であった怖い話
>二話目(岩下明美)
>R7

あなたはそれでも彼女と交際を続けていた。
彼女は、とてもいい子だったから。
……あなたの血を吸う蚊を、一匹一匹殺す以外はね。
そして、彼女の行動はますますエスカレートしていったの。
彼女は、蚊があなたの血を吸うことをどうしても許せなかった。

坂上君は、私のもの。
それなのに、蚊がまだ坂上君の血を吸っている……。
そう思うと、いてもたってもいられなかったのよ。
彼女は、あなたの血を吸う蚊も許せなかったけど、蚊にやすやすと血を吸わせる、あなたのことも許せなくなったの。

そして前以上に、あなたに暴力をふるうようになったのよ。
そのことであなたが彼女をしかると、彼女は泣き出したわ。
彼女は思ったの。
このまま蚊に、私の坂上君の血を吸わせるくらいなら……。
いっそ、
いっそのこと私が……。

それから彼女は、あなたの喉ぶえが気になってしかたがなかった。
あなたがしゃべるたび、その喉の肉の動きが気になってしかたがなかったの。
いっそのこと私が……。
そんなことを、何度となく考えた。
そして、ある日のこと。

彼女は、屋上でいつものようにお昼を食べている時、いきなりあなたの喉ぶえに噛みついたの……。
彼女は、そのとき死んでもいいと思っていたみたい。
あなたの血を吸えるなら、死んでもいいと。
それだけの覚悟があったんだもの。

彼女は、おもいきりあなたに噛みついた。
それこそ、喉がちぎれるくらいに……………。
あなたは必死で抵抗し、彼女をとりおさえた。
そのことが校内で噂になり、彼女は転校していったわ。
そして……。

それから後、彼女のいたクラスで、蚊が大量発生するようになったの……。
その蚊の標的は……坂上君、あなただった。
いえ、あなたじゃなかったわね。
この話の中の坂上君だったわ。
そのクラスにいる蚊は、他の生徒の血を吸わなかった。

坂上君の血だけを、毎日毎日吸っていたんですって。
毎日、毎日、あちこちの肉に食らいついていたんですって……。
学校内で、これは北島さんの呪いなんだって噂が流れたわ。
そしてその呪いは、今もそのクラスにかかっているそうよ。

そのクラスは……一年E組。
あなたのクラスよ。
この呪いはね、片思い中の女の子の耳に、なにものかが語りかけてくるというものらしいわ。

その声は、こういうんですって。
「おまえの愛しい人を、自分だけのものにするがいい。そのためには、血を吸うんだ。
おまえができなければ、俺がやってやる。
どうだ? おれの配下の蚊をさしむけて、血を吸ってやろうか?」

そして、その女の子の返事によって、クラス内に蚊が大量発生するんですって。

……私、北島さんのことを、かわいそうだと思うの。
彼女、きっとこの声の主に惑わされたのよ。
蚊が大量発生したのは、彼女の呪いじゃないと思うわ。
きっと、この学校にいる何かが、彼女を惑わしたんだと思うのよ。

坂上君。
あなたを好きになった女の子が、この声を聞いたらどうする?
あなたには、この声の主の呪いが解けるのかしら……。
私の話は、これで終わりよ。
次は、誰の番かしら?


       (三話目に続く)