学校であった怖い話
>二話目(福沢玲子)
>B6

私も、志田さんがかわいそうだと思う。
まあ、こんな事になってしまったわけなんだけどね……。
お金に目がくらんだ志田さんは、守銭奴に見えるわね。
でも、私はわかるな……。

だって、まだ高校生でしょ?
私も高校生だけどさ。
月五十万円なんて大金よね。
志田さんじゃなくても、そんなおいしい話があったら気持ちはぐらつくと思うよ。

玉井さんの家が、どれだけお金持ちかしらないけど、お金で志田さんを釣ろうなんて許せないよね。
実際釣れちゃったんだけどさ……。
なんだかんだいっても、玉井さんは学校に残れたわけじゃん。

よくもまあ、学校に来れるもんだって、そうとう陰口をたたかれたみたいよ。
表面的にも、嫌がらせがあったらしいし。
あれ以来、玉井さんてなんなのかしら、とか好き放題にいわれていたんだけど、さすがに彼女も人間だし、みんなのそんな態度にだんだん耐えられなくなったようなの。

彼女、授業以外はいつもどこかに行っていたそうよ。
そして、そのうち彼女は授業もさぼるようになっていったの。
みんなは、嫌な奴がいなくなってよかったって、喜んでいたわ。

そんなある日、体育館脇の水道を使った生徒たちが、変な臭いがする水が出るとかいって騒ぎ出したの。
それでね、確かにその水道水は、なんともいえない生臭いような臭いを放っているのよ。
しかも、水の色もなにか変なの。

そこにある水道だけ全部そうなんだよ。
新校舎のほうは全然大丈夫だったんだけどね。
この学校の水道は、貯水池から水を引いているっていうのはさっきいったよね。

体育館脇の水道だけは、ほかとは違う貯水タンクにいったん溜めてから水道水として使用されていたのよ。
不審に思った先生が、じゃあその蛇口につながっている貯水タンクを調べようと、屋上に上がったその時……。

そこには、タンクのふたを開け、その中に顔をつっこんでいる玉井さんがいたのよ。

「君、危ないよ! そこで何をしているんだ!?」
玉井さんはこちらを振り向き、じっと先生をにらんでいたかと思うと、また、タンクの中に顔をつっこんだの。
「なにか、ぶつぶついっているのか……。」

先生は、玉井さんがどう見ても普通じゃないってことがわかって、他の先生を呼んで彼女をそこから引きずり下ろしたわ。
もう、暴れて手がつけられないほどだったって。
そして彼女は、
「私の大切な物を、みんなで取ろうとするのね!! どうしてよ!!」
って、叫んでいたってさ。

もう、わかったわよね。
そう、玉井さんはいつも志田さんに会いにここにきていたの。
その貯水タンクには、志田さんが閉じこめられていたのよ。
死後、かなり経っていたそうよ。
水死体なので、かなり水を吸っていて、志田さんの生前のきれいな容姿は見る影もなかったそうよ。

爪もはがれてひどい状態だったって。
タンク内に、引っかき傷がたくさんあったところをみると、きっと彼女はそこから出ようと一生懸命にもがいていたんでしょうね。
薄暗く、酸素も少ない貯水タンク内で彼女は冷たい水に身を沈め、誰か助けに来てくれることを願いながら死んでいったのよ。

玉井さんは、いつまでも志田さんが自分のそばにいるようにって、監禁していたのね。
彼女が死んでしまっても、かまわないでね。
そこまでして、玉井さんは志田さんを自分の物にしておきたかったのよ。

もう、玉井さんにとっては志田さんは人間じゃなくなっていたのかもしれないわ。
すでに、物だったのよね。
本当にかわいそうな人……。
聞けば、タンク内の掃除の日が彼女の監禁当初の日にちと、ぶつかっていたらしいわ。
でも、掃除はされなかった……。

それまで掃除なんて名目上で、ちゃんとやってたことなんてなかったそうよ。
あのとき、掃除をきちんと行っていれば、彼女は発見されて助かったかもしれなかったって。
あれ以来、その貯水タンクを掃除して水道を普通に使えるようにしたんだけどね……。

なぜか、例の右から二番目の蛇口からはどろっとした生臭い液体がゴボゴボいいながら出てくるんだって。
ほかの蛇口からは普通の水が出るのよ。
水道管やタンクを何回調べても、特に異常は見つからなかったのにね。

それでね、その液体をうっかり触ったりすると、その皮膚は色素が抜けたようになって、しばらく元に戻らないんだって。
それで、生徒が気持ち悪がるので先生方が蛇口を封印してしまったのよ。

えっ? 今も、生臭い液体が出るのかって?
さあ? 私が知ってるわけないじゃない。
後で、こっそり蛇口の封印を解いてみれば?
そんな、勇気はないくせに……。
うふふふ。
私の話はこれで終わりよ。
さあ、次は誰の番かしら?


       (三話目に続く)