学校であった怖い話
>二話目(福沢玲子)
>C6

そうよね。
私も、そう。
何だか、話を聞いちゃうと、馬鹿みたいな結末よね。

それでもさあ、玉井さんは学校に残れたわけじゃん?
よくもまあ、学校に来れるもんだって、そうとう陰口をたたかれたみたいよ。
表面的にも、嫌がらせがあったらしいし。
でもね、彼女、図太いのよ。

何を噂されようが、誰に注意されようが、少しも応えないのね。
それどころか、今までよりも態度がでかくなったのよ。
まるで、自分のどこが悪いんだって感じで、どこ吹く風なの。
何だか、みんなは呆れちゃって。
噂するのも馬鹿らしくなって、完全に相手にしなくなったの。

そしたらさあ、いつも休み時間に自分の机でポツンと一人で座っていた玉井さんの姿を急に見かけなくなったのよ。
みんなは、嫌な奴がいなくなってよかったって、喜んだわ。
彼女ね、どこにいたと思う?
休み時間の間中、ずーっと水を飲んでいたのよ。

体育館の脇にある水飲み場で。
彼女ね、休み時間になる度にその水飲み場に走っていくと、蛇口に口を吸いつけて、無我夢中で水を飲むんですって。
それも、必ず右から二番目の蛇口で。
休み時間の間中、一回も口を離さず、飲み続けたんですって。

すごいわよね。
ついにおかしくなったって、みんな笑ってみてたんだけど、何でも授業をさぼってまで飲むようになったんですって。
次第に、みんな気味悪く思い始めたのよ。
だって、誰かが止めなければ、水を飲むのをやめようとしないほど、ひどくなったんだもの。

「やめてよっ!
もっと飲ましてよ!
おいしいジュースなの!
あの水道からは、オレンジジュースが出てくるんだもん!」
先生が蛇口から引き離そうとすると、玉井さんはそうわめいたんですって。

それを聞いたほかの生徒が、試しにあの水道をひねっても、出てくるのは普通の水だけ。
オレンジジュースなんか、出てきやしない。
玉井さんは完全に変になったってみんな確信したわ。
もう、学校に来るというよりも、あの水飲み場の水を飲みに来るって感じね。

授業なんかそっちのけで、授業中であろうとなんであろうと、あの水飲み場から離れないんだから。
ついに先生も怒ってね。
水を飲んでいる玉井さんを、無理やり引き離したの。
そしたらどう?

その時、その場にいた人たちはみんな見たわ。
蛇口から、どろっとした液体と一緒に、何だか赤っぽい糸のようなものがボタボタ落ちてくるのよ。

ミミズだったわ。
ミミズが、粘ついた液体と一緒に、蛇口からドロドロ出てくるの。
みんな、言葉を失って、その場から動けなかったわ。
「オレンジジュース! おいしいオレンジジュース! 誰にも飲ましてあげないんだから!」
玉井さんの口には、ミミズがいっぱい詰まってたって。

それでも、まだ蛇口からこぼれ落ちるミミズをすすってたんだって。
「ぎゃっ!」
突然、玉井さんは叫ぶと、その場に倒れ気を失ったの。

口から、げほげほミミズを吐いてたってさ。
きっと、喉に詰まらせたのよ。
そして、病院に運ばれて手術されたの。
玉井さんの胃の中は、ミミズでいっぱいだったんだって。
命は助かったんだけれどね、今は何をしてるかわからないって。

……あの蛇口が使われなくなったのは、そういう理由なの。
でね、風の噂なんだけど、志田さんは自殺したらしいのよ。
新聞に、ちっちゃく出てたんですって。
何でも、貯水池に入水自殺したらしいの。
その貯水池というのが、この学校にも水を引いてる場所でね。

それで、志田さんが死んだころと、玉井さんが水飲み場から離れなくなった時期とが、ぴったり一致するんだって。
みんな、噂したわ。
あれは、志田さんの呪いだったんだって。
これで私の話は終わり。

……ところでさっき、あなたは水道の水が飲めるって言ったわよね?
おいしい?
おいしいと思うんだったら、気をつけたほうがいいんじゃない?
もしかしたら、水だと思ってるのはあなただけで、ひょっとしたら本当は……。
さあ、次は誰の番?


       (三話目に続く)