学校であった怖い話
>三話目(新堂誠)
>I6

そう、悪魔の呼び出し方だ。
ノートの記入欄には、バスケ部のデーターや練習方法などが書かれていたんだがな。
欄外のあちこちに、悪魔の呼び出し方がなぐり書きされていたんだよ。

田所はページを一枚一枚めくり、その儀式の方法を読んでいった。
そして、その方法を別の用紙にまとめて書き写したんだ。
けれど、一つだけ抜けている項目があった。

悪魔を呼び出す為に必要な材料は四つ。
カエルの心臓と、アルコール、それに月桂樹の葉と……。
もう一つ。
その、もう一つの材料が何なのか、書かれていなかったんだよ。

田所は、ノートを隅々まで調べた。
すると、ノートのページが一枚、破れて無くなっていることに気付いたんだ。
きっと、その一枚に最後の材料が書かれていたんだろう。

ノートには、悪魔の呼び出し方と一緒にこんなことも書かれていた。
「この方法で呼び出す悪魔は、人の記憶を消す力を持っている。誰のどんな記憶を消すかは、悪魔を呼び出す儀式を行った者が取り決める。この悪魔は、人の記憶を食べる種族である」

それを見て、田所は考えてしまった。
バスケットボール部のみんなや、川口の記憶を消すことができたら……。
みんなの心にある、自分に関する嫌な記憶をなくして、再びバスケ部のキャプテンになれるかもしれないとね。

しかし、悪魔を呼び出すなんて危険なことだろう。
最後の材料もわからないしな。
だから田所は、あきらめようとしたんだ。
するとどうだ。

どこからか声が聞こえてきたのさ。
「田所君、ノートを読んだんだね……」
田所は、辺りを見回した。
だが、誰もいない。

「大丈夫。儀式の材料は三つだけ揃えておけばいいよ。
残りの一つは、もう目星をつけてあるんだ。
僕は、その儀式を試したことがあるんだよ……」
田所は、緊張で頬がこわばった。
声は、更に続けたよ。

「僕は昔、この学校のバスケ部員だったんだ。
君の事を助けてあげたい。君には、バスケにかける情熱があるからね。僕は、そんな君がすごく気に入ったんだよ。実は僕も、昔部員とトラブルを起こしてね、それを忘れてもらう為にこの方法を試したんだけど……。

バスケ部で活躍する前に、事故で死んでしまったんだ。
僕は、悔しいよ。バスケを愛する君になら、その気持ちがわかるだろう……?」
田所は、部員の霊に同情したね。
霊の境遇が、自分と重なったんだろうな。

それで、決心したのさ。
悪魔を呼び出そうと。
そして、又キャプテンになったら、部員全員でその霊を弔ってやろうとな。
「ありがとう、田所君。それじゃあ、材料を揃えたら、又ここに来てくれ……」
そういうと、部員の霊は消えてしまった。

田所は、さっそく道具を用意したよ。
そして、悪魔を呼び出す儀式を行ったのさ。
儀式は、夜の体育館で行われた。

田所と部員の霊は、バスケットゴールの下で儀式の材料を床にならべた。
田所が用意した材料は三つ。
残りの材料は……。
「大丈夫。ちゃんと用意しておいたから。心配しなくていいよ。」
部員の霊は、そういった。

悪魔を呼び出す呪文を唱えたのは、部員の霊だった。
「レチラヨヤイエウミムチ……姿を現し給え。
記憶を糧にする悪魔よ。
我の元に!!」
………。

そして、確かに悪魔が現れた。 田所は、一生懸命に自分の思いを伝えたよ。
悪魔は田所の願いを受け入れた。
そして……。

「ぎゃああーーーっ!」
田所は床に倒れた。
「頭が、あ……頭が……!!」
田所は頭を押さえ、のたうちまわった。

「……田所君。最後の材料を提供してくれてありがとう。君も僕と、同じ運命をたどったね。僕は一人で霊界に行きたくないんだよ。さあ、一緒に行こう……」
……部員の霊の声がした。
そして霊はいやな笑いをうかべながら、闇の中に消えていったんだ。

最後の材料って何だかわかるか?
……教えてやろう。

それはな、人間の、頭蓋骨だったんだ。
田所は悪魔に頭蓋骨を抜かれ、死んでしまったんだよ。
だから奴の遺骨の中には、頭蓋骨がなかったっていうぜ。
部員の霊も、頭蓋骨を抜かれて死んだんだよ。

そいつは生前悪魔にだまされ、三つの材料で儀式をしようとして、殺されてしまったんだ。
部員の霊が、事故に遭って死んだというのは、こういうことだったのさ。
そうそう、バスケ部の連中や川口のことだがな。

悪魔との約束通り、田所の嫌な話をすっかり忘れているんだよ。
それで、田所が死んでしまったことを悲しんで、奴の写真を部室に飾っているらしい。
そんな写真なんか飾ったら、又何か起こっちまうんじゃないか?
………。

坂上、おまえ、スポーツやってるんだよな。
どの部に入っているんだ?
もし、バスケ部に入っているのなら……。
気を付けろよ。
悪魔の儀式について書かれているノートは、今でも部室にあるそうだからな。

じゃあ、次の奴の話を聞くとしようか……。


       (四話目に続く)