学校であった怖い話
>三話目(新堂誠)
>Q3

これ以上犠牲者をだしてはいけない。
みんなはそう考え、お祓いをしようということになった。
そこで、雑誌の片隅に載っていた広告を読んで、部員が祈祷師を呼んできた。
すると祈祷師は、こんなことをいいだしたんだ。

「このボールには、事故で亡くなった学生の霊がついています。彼はバレーボール部で、大切な試合に行く途中で交通事故にあったようです。お祓いをするのは、夜の方がいいですね。今夜またここに来ますから、その時に誰か一人、ついてきてほしいのですが……」

それで、部の一年生が祈祷師に付き添うことになったんだよ。
そいつは、ボールが増えていると最初に気付いた奴だった。

名前は……松本っていったかな。
松本は、男子バレーボール部のホープだった。
小学校の頃から、バレーボールをしていた奴なんだ。
父親が体育の教師でな、色々教わっていたらしいぜ。
奴は身長が高く、跳躍力も抜群だった。

それに中学の時、都の大会で優勝したチームにいたんだよ。
松本は性格もよかった。
夜の学校でのお祓いに付き添うなんて、誰でも嫌だと思うだろ?
でも、この話がでた時、奴は真っ先に自分がいくと名のりでたんだよ。

それで松本は、夜の学校で祈祷師と待ち合わせをしたんだ。
その日は、秋にさしかかった肌寒い日だった。
松本は、約束の時間より二十分くらい早めに来た。
すると祈祷師は、もう校門に立っていたんだ。

「お待ちしていましたよ……」
祈祷師は、微笑みながらそういった。
松本は、それを見て身震いがしたね。
ただの愛想笑いのはずなのに、祈祷師が不気味に見えて仕方がなかったんだ。

そんなふうに思うのは、夜の学校が怖いせいだ。
松本は、そう自分にいいきかせた。

お祓いは、体育館でおこなうことになった。
二人は校庭を一歩一歩進んでいく。
体育館に向かいながら、松本は背筋がだんだん寒くなっていくのを感じた。

風は吹いていないのに、背中に何かがとおっていく感じがしたんだ。
何か冷たいものが、スウッ、スウッと後ろをなめていく感じだった。
そうして、二人が体育館に入ると……。

床に、ボールがぽつんと転がっていた。
それは、例の呪われたボールだったんだ。
その日の昼、ボールは体育倉庫に入れたはずだった。
それなのに、なぜ、今ここに……?
松本は、ガタガタと震えだした。
しかし、いまさら帰るわけにはいかない。

「さあ、松本君。お祓いを始めるよ」
祈祷師は、にやにやと笑っていた。
なぜ、笑うんだろう。
この人は、何を笑っているんだろう……。

「松本君……僕は嬉しいよ。君が、この僕に協力してくれるなんてね。さあ、そこにあるボールを取ってくれ。そして、自分の胸に抱きかかえてくれよ」
松本は、祈祷師のいう通りにした。

というより、体が勝手に動いたという感じだな。
この祈祷師は何だか変だ。
そう思っても、逆らうことはできなかったんだ。

「さあ、ボールを持ったまま祈ってくれ。報われない運動部員の霊に。君の、スポーツを愛する純粋な心で、彼を救ってくれ……」
松本は、必死で祈った。
もし試合前に交通事故に遭ったら、自分だって成仏できないかもしれない。

松本には、その運動部員の悔しさが、手にとるようにわかったんだ。
「ああ……松本君。嬉しいよ……ありがとう。
ありがとう……僕の気持ちをわかってくれるんだね……」
やがて祈祷師が、そんなことをいいだした。

「もっと……もっと祈ってくれ……そうしたら僕は、成仏できるよ……ボールの呪いも解ける。僕が、僕が成仏できれば……」
祈祷師の姿は、体操服を着た男子の姿に変わり、ぼうっと白く霞んだ。

松本は、必死で祈り続けた。
「ありがとう。ありがとう。ありがとう……」
体操服を着た男子は、霞んで消えてしまった……。

同時に、松本の手に握られたボールも、すっと消えたんだよ。
後は松本一人が、夜の体育館に取り残された……。
どういうことだかわかるか?
ボールに呪いをかけた運動部員の霊は、祈祷師に姿を変えて現れたんだよ。

そして、自分の供養を松本にしてもらったんだ。
依頼を受けた本当の祈祷師は、交通事故に遭って来れなかったらしい。
すべては、運動部員の霊が仕組んだことだったのさ。
……おっと、話はこれで終わりじゃないぜ。
松本のことなんだがな。

運動部員の霊が成仏した途端、足や腕などに激しい痛みを感じたんだよ。
だが、夜の体育館の中では助けも呼べず、冷たい床の上で、一人のたうちまわっていたそうだ。

松本は、立っていられなかった。
足や腕を使って、這いずりまわることもできなかった。
やがて、目も痛くなってきた。
そして松本は、気を失ったのさ……。

翌日、倒れた松本が発見された。
松本の足や、腕の骨は折れていた。
足首にはひねった跡があり、アキレス腱が切れていた。
身体中にあざやケガがあり、目の表面には傷がついていた……。

そう、全部、ボールの呪いで事故にあった人達に起こったことだ。
それが、いっぺんに松本の身をおそったんだよ。
そして、ボールの呪いで事故にあった人達の症状は全快したそうだ。
松本は、ボールの呪いを解く代償として、自分の身を犠牲にすることになってしまったのさ……。

どうだ、坂上?
スポーツはいい。
しかし、この学校に通うなら、部活中も気をつけていなくちゃな。
めったなことに首をつっこむなよ。
この七不思議の取材だって、じゅうぶん命知らずな行動だとは思うけれどな。

俺の話は、ここまでだ。
次の奴の話を聞くか……?


       (四話目に続く)