学校であった怖い話
>三話目(荒井昭二)
>A4

彼は、人を屋上からつき落とすことも考えました。
けれども、自分でそれを試すことがもっとも近道であるという結論に達したのです。
誰かをつき落とすには、色々な準備がいります。
相手に抵抗されたり、人に見つかったりしたら、失敗しないとは限りません。

もし、失敗したら……。
次にこの実験を行うのは、今以上に困難になってしまうでしょう。
そこで彼は、自ら飛び下りることが、一番確実で手っ取り早い方法だと考えたのです。
それに、自分が屋上から飛び下りるということは、あまりにも甘い誘惑でした。

試さなくてはならない。
彼は、そう考えました。
そしてある日曜日、人目を避けて屋上へと向かっていったのです。

新校舎の屋上へ続く階段は、通気性が悪い為どこかカビ臭いにおいがしていました。
彼は、そのにおいを嗅ぎながら、人間の死臭について考えました。
飛び下りて死んだら、死臭は地面にしみつくだろうか。
そんな風に思いながら、自分がとても貴重な実験を試みようとしていることをかみしめたのです。

階段を一歩一歩上がる自分の足音が、静かな空間に響きわたります。
彼はなんだかおごそかな気分になっていました。

階段を上りつめ、屋上への扉を開けると、夏の湿った空気が彼を迎えました。
そして彼は、屋上の柵に手をかけ、迷わずに飛び下りたのです……。

彼は、助かりませんでした。
答えはでたのです。
彼が飛び下りた地面には、血の跡が鮮やかにひろがっていました。

……高い所から下を見たら、吸い込まれそうになるとよくいいますよね?
あれは、地の底に潜む死者が、招いているのだということをご存じですか?

そうそう、この学校の屋上にあがるときは注意した方がいいですよ。
相沢さんが、招くそうですから。
実際そのために、飛び下りてしまった生徒がいたそうですよ。
彼は、自分でだした答えに、満足していないのかもしれません。

だからつぎつぎと人を招き、飛び下りた結果を知ろうとしているんじゃないでしょうか。
僕は、思うんですよ。
彼は、屋上から落ちても人は死なない、という答えが欲しかったのではないかと。

だって、屋上から下を見るとすごく気持ちがいいじゃありませんか。
飛び下りたら、気持ちよさそうだと思いませんか?
それなのに、落ちたら死んでしまうなんて、何だかおかしいと思いませんか……?

でも、そう感じるのは、死者が誘っている為なんですよね。
それがわからず、犠牲になってしまった相沢さんは、不幸な人だと思います。
あなたも、十分気を付けて下さい。

死者が呼ぶだけなら、まだいいと思います。
でも、思いが強い死者は、高い所から下を見ている人を後ろからつき落とすこともあるそうですから。
……僕の話はこれで終わりです。
次は、どなたの番ですか?


       (四話目に続く)