学校であった怖い話
>三話目(荒井昭二)
>B4

気に入らない先生をつき落とそうか、それとも……。
彼は迷いました。
そして、ゆっくり屋上で計画を練ることにしたのです。
彼が屋上の柵によりかかっていると、一人の男子生徒がやって来ました。
その時屋上にいたのは、相沢さんと、この生徒だけでした。

今こいつをつき落としたら、誰にもばれないかもしれない……。
相沢さんは、そんなことを考えました。
でも、ことは慎重を要します。
相沢さんは、その男子生徒が立ち去るのを待ちました。
計画を練るのに、人がいては気が散りますから。

しかし、男子生徒は立ち去る気配をみせません。
それどころか、こんなことをいうのです。
「こんな所から飛び下りたら、どんなことになるんでしょうね……」
相沢さんは、思いました。

計画には、仲間がいてもいい。
いや、仲間にしなくてもいい。
こいつをうまく使うことは、できないだろうか……。
そこで相沢さんは、この男子生徒にいろいろ話しかけてみることにしたのです。

その男子生徒は、屋上がとても好きで、よくくるのだそうです。
彼はずいぶん気弱そうで、いくらでも自分に都合のいい命令ができそうでした。
相沢さんは、彼と毎日屋上で会うことにしました。
そして、自分の考えを吹き込んでいったのです。

「屋上から人が飛び下りたら、死ぬのかどうか知りたくないか?」
男子生徒は、多少脅えた表情を見せながらも強くうなずきました。
相沢さんは、さらに聞きます。
「誰か、じゃまだと思う奴はいないのか?」
男子生徒は、相沢さんが何をいおうとしているのかがわかったようです。

彼は目を伏せ、こう答えたのです。
「僕は、自分が嫌いですよ。自分で自分のことを、いなければいいと思うことがあります……」
その言葉を聞いた時、相沢さんのターゲットは決まりました。
相沢さんは、その男子生徒をそそのかし、屋上から飛び下りさせようと考えたのです。

二人は、人の死について語りあいました。
毎日毎日屋上でおちあって、柵ごしに地面を見つめ、死んだ後の世界について語りあったのです。

相沢さんは、死後の世界は素晴らしいものに違いないといいました。
彼は、一刻も早くその男子生徒に身投げしてほしかったのです。
しかし、男子生徒はなかなか彼の計画を実行にうつしてはくれませんでした。

そこで相沢さんは、ある日強行手段にでることにしました。
いつものようにその男子生徒と屋上で待ちあわせ、紙とシャーペンを差し出したのです。
「遺書を書いてみないか」
相沢さんは、そう誘いました。

「こんな世の中に、いつおさらばしてもいいように、遺書を書いておくんだ」
相沢さんは、男子生徒に見本を見せました。
このとおりに書けばいいといって、相沢さん直筆の遺書を見せたのです。
男子生徒は、震える手でシャーペンを受け取り……。

相沢さんにむかって、振りおろしたのです。
「な……何を……!」
その時の音は、何と表現したらいいんでしょう。
ええ、なんといったらいいか……。
風を切る音と、肉を切る音って、似ているんですね。
僕は、そう思いましたよ……。

不意打ちをくらった相沢さんは、床に頭を打ちつけて倒れ、気を失いました。
そして相沢さんは、屋上から……。
つき落とされたんです。
屋上から人が落ちるのを見たかったのは、相沢さんだけではなかったんですよ。

もちろん僕だって、ずっと……。
相沢さんが飛び下りてくれるのをずっと待っていたんですよ……。
ああ、なんて顔をなさっているんですか。
すみません、誤解されるようないい方をしてしまいました。

僕が相沢さんを、屋上からつき落としたわけではありませんよ。
さっきいった男子生徒とは、あくまでどこかのクラスの男子生徒です。
僕は、彼らの一部始終を見ていたんです。

僕も屋上にいくのが好きなものですから、彼らのやり取りを興味深く観察していたというわけです。
つき落とされた相沢さんは、どうなったのでしょう。
僕は、彼がつき落とされた時点で屋上から逃げましたから、その後のことはわからないんです。

あれは、恐ろしい事件でした。
あの男子生徒は、僕がそう思っていたように相沢さんが飛び下りてくれるのをずっと待っていたのかもしれません。
あるいは、相沢さんをつき落とす機会を狙っていたのかも……。

僕は、それから数日学校を休みました。
あの時僕が見ていたことを、彼らに知られていたらどうしよう。
そう思うと、家から出られなかったのです。

登校すると、校内では相沢さんの事件について様々な噂がながれていました。
僕はなるべくそれらの話を聞かないようにしていました。
もうあの事件には関りたくなかったのです。
でも、一つだけ気になることがあります。

その後、理科の授業で屋上にのぼった時、相沢さんの声が聞こえた気がしたんです。
これは、他の生徒も何人か聞いています。
彼は、やはり死んだのでしょうか……。
何だかあれは、遠い昔のことのように思われます。

そう、あれは昔の話。
遠い、遠い昔の話なんです……。
僕の見たものは、現実だったのでしょうか。
確かめるすべは、ただ一つのような気がします。

屋上に行き、相沢さんに話しかけてみるんですよ。
あなた、どうですか?
試してみますか……?
僕の話は、これで終わりです。
次の人の話を、聞くことにしましょう……。


       (四話目に続く)