学校であった怖い話
>三話目(細田友晴)
>G7

我慢は体に良くないからね。
僕は、新校舎の一階にあるトイレにいくことにしたんだ。
その時僕は、忘れていたんだよ。
竹内さんのクラスが、一階にあったことを……。
僕は早く帰りたかったから、速足でトイレに向かった。

新校舎に入り、一階の廊下を駆けるように進んでいったよ。
すると……。
背後から、足音が聞こえてきたんだ。

はじめは慌てて進んでいたから、その音に気づかなかったけれどね。
足音が近付いてきて、僕はヒヤリとしたんだ。
後をつけられている。
そう思ったね。

トイレまで、あともう少しの距離だった。
走って、トイレの個室に隠れてしまおうか。
そんなことも思った。
足音は、どんどん近付いてくる。
……もう走るしかない!
僕は、駆けだそうとした。
その時……!

「細田君、君、さっきのことを見ただろう」
背後から、声がしたんだ。
竹内さんだった。

「あれを見たら、生かしてはおけないよ。そうだね、あのトイレの中に落としてあげようか。あいつの養分にしてやるよ」
恐ろしい声だった。
あの、人気者の竹内さんとは思えないような……。

「君があそこから走り去るのは見えていたよ。
明日にでも対策をうとうと思っていたが……。
僕の教室の前に来てくれるなんてね。ちょうどよかった。今すぐに処分してやろう」

彼は僕に、つかみかかってきた。
僕は、必死になって抵抗したよ。
僕達のその様子を誰かが見ていたらしい。
しばらくして、先生がかけつけてきた。

僕は、助かったんだ。
竹内さんは、舌打ちをして帰っていったよ。
……それから、彼は転校することになった。
あんなことがあったからだろうね。
僕は、誰にもこのことをいわなかったけどね。
いったら彼に殺される、そんな気がしたからね。

最後の日は、みんなが悲しんですごかったよ。
彼は、トイレに行かない男として女子の脚光をあびていたからね。
女の子からのプレゼントや手紙がいっぱい入った紙袋を下げ、挨拶にまわっていたよ。

そして彼は、最後に旧校舎の方に向かって歩いていったんだ。
誰かが、それを見たといっていた。
あの植物にも挨拶をしに行ったんだろうか。
僕は、あのトイレがどうなっているのか気になってしまった。

それで次の日、トイレを見にいってみたんだ。
すると……。
彼はいた。
便器の中から生えている植物に、竹内さんの顔が二つついていたんだ。

その顔の一つがこういった。
「助けてくれ……」
竹内さんは、あの植物を処分しようとしたんだよ。
そうしたら植物の逆襲にあい、便器に引きずり込まれ、養分にされたらしい。
植物についた竹内さんの顔が、泣きながらそう語っていたんだ。

竹内さんは旧校舎のトイレしか使わなかったから、みんなにトイレに行くところを見られていなかったんだよ。
でも……。
竹内さんは、だまされたんだ。

あの植物は、竹内さんの排泄物を吸収することによって、彼そっくりの形になっていき、最後には人間と見分けがつかないくらいになるといっていたそうだ。
竹内さんは、自分のクローンを作りたかったんだって。

二人で交代して授業を受けたり、遊びにいったりとかいう、SFのようなことがしたかったんじゃないかな。

それで、せっせとあそこに通っていたんだよ。
でも、クローンが作れるなんて嘘だった。
植物の本当の目的は、人間を養分にすることだったのさ……。

僕は、とにかくその場から逃げ出した。
竹内さんを助ける力なんて、とてもじゃないけどないからね。
そして、もう二度とあそこには行くまいと思ったんだ。

トイレから出て、廊下を走っているあいだ中、竹内さんの叫びが聞こえたよ。
彼は何度も、何度も、苦しそうな声をあげていた。
今でも、耳に残っている。
竹内さんの、叫びが。
助けを呼ぶ声が……。

僕が見たことはすべて話したよ。
さあ、次の話に行こうか……。


       (四話目に続く)