学校であった怖い話
>三話目(細田友晴)
>H7

本当は、新校舎のトイレを使えばよかったのかもしれない。
でも僕は、やっぱりさっきの光景がどうしても気になってしまったんだ。
そこで、旧校舎にもう一度行ってみることにしたのさ。

あんな植物のいるトイレを使おうとしたなんて、信じられないかい?
今思えば、あの植物に呼ばれていたのかもしれないね。
僕は、旧校舎に向かった。

旧校舎に入ると、誰かの泣き声が聞こえてきたよ。
僕は、すごく嫌な予感がした。
やっぱり、こんな所に来るべきではなかったかもしれない。
そう思うんだけど、足はトイレへと進んで行くんだ。
トイレへ近づくほど、泣き声は大きくなっていった。

そして僕は、何かに引き寄せられるように、例のトイレのドアを開けたんだ。
すると、植物がいた扉から、泣き声が聞こえてきた。
なんだろう。
僕は、扉を開けた。

中を見ると、植物が……。
竹内さんの顔をした植物が、泣いていたんだよ。
人間の姿をした竹内さんは、もういなかった。
そして植物は、こんなことをいっていたんだ。

「助けてくれ……!
僕は、竹内だ。悪霊にこんな姿にされてしまったんだよ。
助けてくれ……お願いだ……助けて……」

彼は、一部始終を話してくれたよ。
竹内さんは、初めてこの学校に来た日、いたずらで旧校舎に入りこんだんだって。
そこで、トイレにいきたくなって。

例のトイレを使ったら、便器から悪霊の手が出てきて、竹内さんの足をつかんだらしい。
悪霊は、竹内さんの体から生体エネルギーを吸い取っていってね。
竹内さんは、植物の姿に変えられてしまったそうだ。

そのあと悪霊は、竹内さんそっくりな姿になって……。
竹内さんのかわりに、学校に通うようになったというんだ。
悪霊は、時々竹内さんのもとにやってきて、彼の生体エネルギーを吸っていたんだ。
あの、しわしわの植物になった竹内さんから、絞りとるようにエネルギーを吸っていたんだよ。

悪霊は、排泄なんてしないんだろうね。
だから、竹内さんはトイレにいかないって評判がたったんだよ。
彼が旧校舎のトイレに通っていたことは、誰も知らなかったんだろうな。

植物になった竹内さんは、泣き叫んでいた。
でも僕には、何もできなかったよ。
僕は彼に何度も謝って、旧校舎のトイレを後にしたんだ……。

坂上君。
竹内さんに化けた悪霊は、もう卒業してしまったけれど……。
もしかしたら今でも、植物になった竹内さんが、旧校舎のトイレにいるかもしれない。
どうだい?
今から、見にいってみたいんだけどね……。

「あっ、細田さん!」
彼は、僕の返事を聞かずに、部室を出ていってしまった。
僕達は、あわてて彼のあとを追った。

旧校舎の空気は、たいそう湿っぽかった。
ギシギシとなる廊下が、みんなの緊張をたかめていく。

僕達は、例のトイレの前にやってきた。
そして、細田さんが指さした個室のドアを開けると……。
「……何もありませんよ」
便器の中には、植物などなかった。
みんな、ほっとしたような顔をしている。

しかし、細田さんだけが、表情を曇らせていた。
何か、いいたそうな顔をしている。
「細田さん、どうしたんですか?」
僕は、思いきって尋ねてみた。

「坂上君、本当にいいづらいんだけどね……」
細田さんは、ぼそぼそと話しはじめた。
どうして僕が、ここに君を案内したかわかるかい?
……一つ、気になることがあったからだよ。

そして、その予感は的中してしまった。
植物になった竹内さんは、きっともう死んでしまったんだろうね。
だとすると……。
悪霊の竹内さんに、生体エネルギーを与える人間がいなくなってしまったことになるんだよ。

誰かが又、ここで植物にされてしまうかもしれない。
……坂上君。
僕が、心配に思ったことをいおう。
君は竹内さんにそっくりなんだよ。
顔は別に似てないけれど、その雰囲気が実によく似てるんだよ。
霊につけいられそうな雰囲気がね……。

竹内さんに化けた悪霊は、もう別の人間を植物にしてしまっているのかもしれない。
獲物は、竹内さんに似ていなくてもいいのかもしれない。
でも、僕は心配なんだよ。
竹内さんに似ている君が……。
次の、犠牲者にならないかってね……。

………。
さあ、部室に戻ろう。
次の話を、聞かなくちゃいけないからね……。


       (四話目に続く)