学校であった怖い話
>三話目(岩下明美)
>B11

ある日の真夜中、彼女の家が火事になってしまったの。
家族の人は逃げ出して無事だったんだけど、家は全焼してしまったわ。
当然、彼女のベッドの上にあった、例の絵も燃えてしまった。
焼け出された清水家の人たちは、親類の家に行くといって引っ越していったわ。

ところが、それからしばらくして、また美術室に例の肖像画が姿を現したの。
火事は激しくて、何も残ってなかったはずなのにね。
それだけ、絵に残っていた清水さんの思いが強かったってことなんだろうけど。
でもね、一つ問題があったの。
彼女の家は燃えてしまった。

そして、家族の人も遠くへ引っ越して行ってしまったでしょう。
……そう、あの絵の帰る場所がなくなってしまったのよ。
それから、夜になっても絵が消えることはなくなったわ。
その代わり、深夜になるとシクシク泣き出すという噂がたったのよ。

彼女にしてみれば、きっと寂しかったのね。
でも、みんながあまり怖がるものだから、とうとう絵を外してしまったの。
そして、美術部が保管するということでおさまったのよ。
それから、何も事件は起こらなくなった。

……でもね、私は思うの。
彼女は、家族を捜しに行きたいんじゃないかしらってね。
それなのに、あんなところに押し込められてたんじゃ、それもできないでしょう。
……うふふ、わかった?
私があの絵を出したかったのはね、彼女に家族を捜すチャンスをあげたかったからなの。

私の考えが正しければ、あの絵は家族を捜しに行くはずよ。
ねえ、見に行ってみましょうよ。
いっしょに行ってくれるわよねえ。
……でも楽しみよね。
ひょっとしたら、絵が動き出す現場を見られるかもしれないのよ。

ドキドキするでしょう?
さあ、扉を開けるわよ。

……見て、坂上君!
絵は掛かったままだけど…………中の人物がいないわ!?
絵が変わったんじゃない。
あの角のかすかなシミ、私さっきも見た覚えがあるもの。
肖像画から、人物の部分だけが抜け出してしまったのね!

こんなことになるなんて……。
でも、絵から抜け出た彼女は、どんな姿なのかしら。
紙のように薄っぺらなの?
それとも、描かれた上半身だけの姿?
そもそも、清水さんの姿を、まだ保っているのかしら?

うふふ、坂上君はどう思う?
予想外の結果だったけど、これで私の話は終わりよ。
部室に戻って、次の話を聞きましょう。


       (四話目に続く)