学校であった怖い話
>三話目(岩下明美)
>D10

そう、絵は部室にあったのよ。
美術部員の男の子が持ち出していたの。
なんで、そんなことをしたかって?
清水さんのことが好きだったからよ。

だから、死んだ後も清水さんがこだわり続けた肖像画が、欲しくなったのね。
それからが大変だったの。
男の子が、清水さんの絵から離れようとしないのよ。
先生に怒られても、夜になってもね。
最後には、その子の家族の人が来て、説得したわ。

でも、その子は聞かなかった。
根が生えたように動かずに、じーっと絵だけを見つめているんですって。
しかたなく、絵の方を動かそうということになったのよ。
家に持ち帰れば、とりあえず男の子もついて行くだろうからってね。

そして、実際その通りだったわ。
男の子は絵を抱えた家族の人に連れられて、フラフラと家に帰っていった。
そして、それっきり学校に来なくなったの。

部屋の中で、絵を見つめたまま身動きもしないらしいのよ。
ご飯も食べず、眠りもせず、ずーっとね。
それが一月近く続いたの。
家族の人は心配して、病院に連れていこうとまでしたらしいわ。
でも、絵から引き離そうとすると暴れ出すんですって。

人間とは思えないほどの力でね。
最後の手段として、家族はカウンセラーを呼んだのよ。
でも、少し遅かった。
カウンセラーの人が彼の部屋に入ったとき、彼はもう息をしていなかったの。

衰弱して死んでしまったのね。
でも不思議なことに、それでも座ったまま、壁に掛けた絵を見上げていたそうよ。
動かそうとしても、石になってしまったように、ポーズさえ変えさせられなかったって。

彼のお葬式が終わってから、肖像画は学校に返されてきたわ。
でも、もう誰も近づこうとしなかった。
二人分の思いがこもっているんですものね。
近づいたら、自分も彼のように魅入られてしまうかもしれないわ。
あれは、そういういわれのある絵なのよ。

……あら、怒ったような顔しているわね。
今さらながら、怖くなってきたんじゃない?
うふふ……。
それじゃ、これで話を終えるわね。
次は誰かしら?


       (四話目に続く)