学校であった怖い話
>三話目(岩下明美)
>K11

あら、本当にいいのかしら?
この部屋の中に漂う怪しい気配に、気づいていないの?
こんなところに一人で残るなんて。
……まあ、あなたがいいなら構わないけど。
でも物好きね。

私だったら絶対にごめんだわ。
それじゃあ私たち行くけど、気が変わったら
追いかけてきてね。

僕以外のみんなが立ち上がって、ゾロゾロと出ていき始めた。
最後になった岩下さんが、僕を振り返った。
「気をつけてね……」
くすっと笑う。
背中がぞくっとした。

この人は何かを知っているんだろうか。
この部屋に一人で残されることを急に怖いと思った。
でも、僕はグッと我慢した。
わざと思わせぶりな態度を取ってるんだ。
そうすれば、僕が怖がると思って。

そんな手に乗るものか。
扉を閉めかけていた岩下さんが、にっこりと笑った。
「案外、馬鹿な人だったのね」

扉が閉まった。
一人になると、狭いはずの部室が、やたらと広く思えた。
薄暗い部屋の隅に、何かが潜んでいそうで、僕は思わずきょろきょろした。
そのとき、後ろでカタンと小さな音がした。

ハッと振り向く。
……誰もいない。

気のせいだったのかと思って机の方を見ると肖像画があった。
一秒前までなかったのに!?
体中の血が凍って固まる。
絵の中の少女と目があった。
少女の口が動く。

シ……ニ……ナ……サ……イ……。
『死になさい』!?
呆然とする僕の手が、意志に反して勝手に上がった。
僕の手が、僕の首を絞めようとしている?
信じられなかった。
でも、首を締め上げる力は現実で、苦しくて気が遠くなる。

ひざの力が抜けて、僕は床に倒れた。
でも、手は許してくれなかった。
グイグイと締めつける。
もう息ができない。
だんだん暗くなる視界の中で、肖像画の少女がニヤリと笑うのが見えた…………。


そしてすべてが終った
              完