学校であった怖い話
>三話目(岩下明美)
>U4
ふうん、嫌いなんだ。
そんなこと、いっちゃっていいのかしら。
だって、絵には描いた人の思いがこもっているのよ。
描いたときの気分にも影響されるんだけど、一番強いのはどんな思いだと思う?
……そう、誰かに見てほしいという願い。
多かれ少なかれ、芸術家にはそういう自己顕示欲があるみたいね。
そうでなきゃ、いけないんでしょうけど。
でも、そうやって絵にこめられた思いっていうのは、だんだん絵と同化していくのよ。
そして絵自身が、自分を見てほしいと願うようになるの。
人物画の目が動いて、こっちを見るっていう話、聞いたことない?
絵の中から人が抜け出して歩き回るとか。
あれも、目だちたいからやっているのよ。
自分を見てっていう一念で、信じられないことをやってしまうのよ。
それほど強い思いってこと。
それなのに、あなたは絵が嫌いだなんていうのね。
聞いた絵が、どんな気持ちがするのかも考えないで…………。
思いやりのない人。
絵も、あなたみたいにデリカシーのない人は嫌いなのよ。
……絵に嫌われたって平気だなんて、考えない方がいいわよ。
特に強い念を持った絵は、人間と見分けがつかない外見のまま、暮らすことができるんだから。
なんで、そんなことを知っているのか、教えてあげましょうか。
私自身が、そういう絵だからよ。
どう、普通の人と変わらないでしょう。
もともとは肖像画なんだけど、本物の岩下明美と入れ替わったの。
本物の行方は……うふふ、ないしょ。
……どうしたの、変な顔して。
信じられないなら、それでもいいけど。
でもとにかく、あなたは私たち絵が嫌い。
そして私は、仲間を代表してあなたが嫌い。
気をつけてね。
私を敵にすると怖いわよ……。
なあんてね。
冗談よ、冗談…………多分ね、うふふふ。
ちょっとは怖かったでしょ?
じゃあ、次は誰が話すの?
(四話目に続く)