学校であった怖い話
>四話目(新堂誠)
>H5

「と、とにかく先輩を呼んでこよう」
一人があわててそういうと、畑中がそれを制した。
「まてよ!
どうやって説明するんだ?
脱走の口封じにリンチしたって報告するのか?」

それもそうだよな。
みんな、黙り込んでしまった。
すると畑中は、まわりに先輩がいないのを確かめながら、こんなことをいいだしたのさ。

「まあ聞け、俺にいい考えがある。
まず、赤坂の死体を布団に運んでいって寝かせるんだ。それから先輩に報告に行け。
先輩のしごきで赤坂が死んだように見せかけるんだよ……」
反対する奴はいなかった。

もともと一年が赤坂をリンチしたのは、先輩のしごきが怖かったからだ。
先輩のしごきさえなければ、こんな事件は起きなかったはずだ。
そう口々にいいあって、罪を先輩達になすりつけようとしたのさ。

「先輩!
赤坂が……。
赤坂が死んでいます!!」
畑中がそういって青ざめたフリをすると、先輩達はころっとひっかかったよ。
赤坂の死体を隠そうと、あれこれ相談をしだしたのさ。

「埋めたらどうだ?」
「いや、そんなの捜索が始まったらすぐに見つかっちまう」
「じゃあ、どうする?」
「まず燃やすんだ。骨だけにして、隠しやすくしよう」
先輩達は、すっかり自分らのせいだと思い込んでいた。

「骨にして、どこに隠すんだ?」
「そうだな、一番いい隠し場所は……あそこじゃないか?」
先輩の一人が指さしたのは、サンドバッグだった。

坂上、これは嘘じゃないぜ。
ボクシング部の連中はな、赤坂の死体を燃やし、その骨をサンドバッグの中に隠したんだよ。
そして、そのサンドバッグで一人一人練習をしたんだ。
みんなで何発も何発も、拳を打ち込んだのさ。

先輩が、そうしろと命じたんだよ。
赤坂を殺したのは自分達でも、死体を隠したのは全員だ、という意識を植え付けようとしたんだな。
連帯責任ってやつか?

赤坂の死体を燃やすのに夜中までかかったから、骨入りサンドバッグの練習が終わるころには、次の日の明け方になっていたよ。
すげえ話だよな。
次の日から、合宿恒例のしごきは手加減されるようになった。
先輩達はもう、びくびくしちまってな。

合宿最終日に至っては、普通に練習試合でもしようか、なんてことまでいいだしたんだよ。
「それはいいですね」
ぼそりと、誰かが答えた。
それは赤坂のような声だった。
だが、先輩達は誰が答えたのかなど確認せず、一年生に試合の準備を始めさせたんだ。

「よし、練習試合を行うぞ。まずは、畑中、おまえからだ」
畑中はリングに立ち、先にリングに上がっていた先輩を見た、はずだった。
しかし、リングで拳を構えていたのは……。

「あ、赤坂……」
先輩の姿はなかった。
そこには、真っ赤なローブをはおった赤坂がいたんだよ。
更に、その赤いローブからは腐った革のような匂いがただよっていたんだ。

「うわあーーーっ」
畑中は、叫びながらめちゃくちゃに殴りかかった。
だが、赤坂も同じようにめちゃくちゃに殴りかかってくる。
周りで見ていた奴らは、その異様な光景に圧倒され、しばらく何もできなかった。
そして、お互いにボロボロになり気を失いかけた瞬間……。

畑中は、見ちまったのさ。
リングに立つ赤坂が、先輩の姿に変わるのを。
そして、聞いちまったんだよ。
先輩の口から、こんな言葉が出てきたのをな。
「許してくれ、赤坂……」
奴らはリングに沈み、意識不明の重体になった。

そして、その他の連中も引き寄せられるようにリングに上がり、殴り合っては倒れていったんだよ。
みんな、殴り合う相手が赤坂の姿に見えていたんだな。
それから、奴らはずっとリング上で倒れていた。
学校が出した捜索隊に発見され、全員命は取り留めたんだが……。

その後、赤坂も学校に戻ってきたんだよ。
死んで骨にされ、サンドバッグに詰められたはずの赤坂が、数日後帰ってきたんだ。
そして、学校に通い続けたんだよ。
赤坂は、死んだはずだった。
なのに……。

合宿にいった奴ら以外は、赤坂の存在を疑問には思わなかった。
だが、合宿にいったボクシング部の奴らは、みんな真っ青さ。
部活のたびにくる赤坂が、本当はこの世の人ではないことが分かっていたからな。
そして、又しても事件が起こった。

赤坂殺しにかかわった奴らが、次々にいなくなっていったんだよ。
自殺したとか、殺されたとかいうんじゃない。
みんな、いつのまにか行方不明になってしまったんだ。

そして、その度にボクシング部のサンドバッグが、だんだん大きくなっていったって話だぜ。
それでボクシング部に対する黒い噂が流れて、一時はつぶれかけたんだがな。

さすがに変だと思った学校側がお祓いをしてな。
赤坂は消えていなくなっちまったって話だ。

その事件があって以来、うちの学校のボクシング部はすたれちまったってわけさ。
だからもう、あの頃のようなしごきは行われなくなったそうだ。
そして、記録を上げることもなくなったんだよ。

……坂上、今度ボクシング部の見学にいってみろよ。
今は、たいした部じゃないけどよ。
すごいところが、一つだけあるからな。

教えてやろう。
あそこのサンドバッグは、なかなか殴り心地がいいらしいぜ……。
俺の話はここまでだ。
次は、誰が話すんだ……?


       (五話目に続く)