学校であった怖い話
>四話目(荒井昭二)
>A2

そうですか。
偶然ですね。
僕が用意してきた話は、ちょうど幽霊に関するものなんですよ。

坂上君、実はですね……。
これは、幽霊の話でもあり、僕の懺悔録でもあるんですけれどね。
どうか、最後まで聞いて下さい。
……それでは、お話しましょう。
実はですね、あの宿泊施設には、幽霊の他にも出るものがあるんですよ。
お教えしましょう。

それは、鉛筆です。
ただの鉛筆じゃありません。
それは、死神鉛筆と呼ばれているんです。
死神鉛筆は、どこからともなく現われ、また消えていくものらしいです。
ようするに、選ばれた人のみ使うことができるものなんですよ。

昔、この学校に、こっくりさんをするのが好きな男子生徒がいましてね。
ただ、彼のするこっくりさんは、「死神様」という名前で、十円玉ではなく鉛筆を使うものでした。
こっくりさんに使用した十円玉はすぐ使ったり手放したりしないといけないそうですね。

でも彼は「死神様」をした後、使用した鉛筆を処分しなかったそうです。
そして、「死神様」をする度にくり返し使うようにしていたということです。
同じ鉛筆を何回も使うことによって、その中に死神様のパワーがどんどん宿っていく、という考えを持っていたようですね。

彼はもう、この学校を卒業してしまったんですが……。
「死神様」に使用した鉛筆を、ある日どこかに落としてなくしてしまったそうなんですよ。
どこに落としたと思います?

……そうです、宿泊施設の中です。
彼は、なんと僕と同じサッカー部に所属していたんですよ。
まあ、僕が入部した頃にはもう卒業していましたから、会ったことはありませんけれど。

それで、その死神鉛筆なんですがね。
その鉛筆を使うと、自動書記ができるそうなんです。
鉛筆の力によって自動的に手が動き、あるメッセージを書くということです。

そのメッセージなんですがね。
死神鉛筆を使った人が、何をすると死んでしまうか、ということを表わすものだそうです。

例えば「道路に飛び出す」とか、「誰かとケンカする」とか……。
そういうことを、予言できる鉛筆だそうですよ。
僕が話すのは、この死神鉛筆にまつわる出来事です。

あれは、去年の夏のことでした。
サッカー部の合宿があった時、死神鉛筆を見つけた男子生徒がいたんですよ。
彼の名は、山本道夫といったんですけれど。
合宿二日目の夜中、山本さんがふと目覚めると、枕もとに鉛筆が置いてあったそうです。

それで、学校の備品かと思ってどこかに移動させようとすると……。
鉛筆を持った瞬間、それが動きだし、彼の手は導かれるようにベッドの脇に置いておいた文庫本のカバーになぐり書きを始めたんです。
その文章は、こういうものでした。

「今日、最初に会った女の子と付き合う……」
月明かりが窓から差し、その文章を照らしています。
彼は、驚きました。
死神鉛筆のことを知らなかった為これは何かの予言ではないかと思いました。

鉛筆は、死の予言を書き終えると空中に姿を消してしまいました。
山本さんはそわそわしだしました。
今日最初に会う女の子というのは、誰だろう。
どんな子なんだろう。
かわいい子だといいな。

合宿中だから、マネージャーの女の子だろうか。
そんなことを考えました。
周りのみんなは、寝ています。
山本さんは、起きて身仕度を始めました。
持ってきた運動着の中で、一番新しいものを枕もとに置きました。
朝、起きたらすぐ着れるように。
僕は、彼がごそごそいう音で目覚めましてね。
見ると、山本さんは文庫本のカバーを眺めてにやにやしているではありませんか。
なんだか変な空気が流れているのを感じて、僕は寝ているふりをしながら暫く彼の様子をうかがっていたんです。

すると……。
彼が、ベッドの下を見ていきなり声を上げたのです。
「うわっ!!」
何事かと思って、目を凝らして見ると……。

彼のベッドの下に、なんと女の子がいたのです。
「き、君、誰?」
山本さんは、顔を赤くしながら驚いていました。
すると女の子は、こんなことをいったのです。
「家出してきたの……」

女の子は、この学校の制服を着ていました。
彼女は、家出をした為、学校の宿泊施設に泊まろうと思って来た、といいました。
そして彼女は、山本さんにベッドを用意してもらい、宿泊施設で寝たのです。

僕は、次の日山本さんに話をしました。
そして、彼が死神鉛筆を使ったことを知ったのです。
僕は驚いて彼に伝えました。
彼が自動筆記をしたのは、死神鉛筆の力だと。
死神鉛筆の予言は、死のメッセージであると。
しかし、彼は僕のいうことを聞き

入れませんでした。

そして、彼女のことは誰にもいうなというのです。
山本さんは、彼女を隠しました。
もしみんなに見つかったら、きっと彼女は帰れといわれてしまう……。
そう思ったのです。
宿泊施設の空きベッドに囲いを作り、そこを彼女に使わせました。

そして、昼は彼女を学校内のどこか別の場所に行かせ、夜みんなが寝た頃に宿泊施設内に入れていたのです。
彼女はいいました。
「学校に通っていたって、毎日同じことのくり返し。授業受けて、家に帰って、又学校に行って……。

時々先生にしかられたり、誉められたり。
テストや成績を気にして、本やノートに線を引く日々。
もっと違うことがしたくて、家を出て来たの。

夏休み中に、楽しい体験がしたくて……」
彼女のいっていることは、ただのわがままかもしれません。
でも、彼はそう思いませんでした。

彼女は、ただ考えなしに楽しもうとしているだけなのではない。
今しかできないことを、しようとしているのだ。
そう考えたのです。
そして、そんな彼女の冒険に協力してあげようと思ったのです。
彼は、彼女に一目惚れしていたのかもしれません。

「あれは、死神鉛筆の予言だよ」
僕がいった言葉を、彼は忘れていなかったはずです。
しかし、彼はその時女の子とつきあっていたわけではありません。
だから、危険はないはずだ。
そう思っていたようです。
しかし、合宿四日目のことです。

「そろそろ家に帰るわ。いろいろありがとう」
彼女は、月明かりが奇麗な夜、そんなことをいいだしたのです。
それだけでも山本さんはショックだったのですが、彼女の次の言葉を聞いて、考えてしまいました。
「いい思い出になったわ」
………いい、思い出……!?

山本さんは、彼女との日々を思い出にされてしまうのをとても悲しく思いました。
そこで、いったのです。
合宿が終わったら、又会おうと。
これからもつきあってほしいと。
すると彼女は頬を赤らめ、その言葉にOKしました。

そして合宿最後の日、夜の校門で待ち合わせをしよう、といいだしたんですよ。
彼は、迷わず約束しました。
そして、合宿最終日がやってきました。

彼は、その日彼女に連絡先やクラスを聞こうと、わくわくして校門で待っていたのです。
しかし……。
彼女はなかなか現われません。
山本さんが待っていたのは、七時ごろからです。

しかし、十時になっても彼女は来ません。
山本さんは、それでも待ちました。
もし、彼女が七時前に来ていたらどうしよう。
そして、山本さんが来ないといって帰ってしまっていたら……。
そんなことも考えましたが、ずっと待ちつづけたのです。

しかし、彼女は来ました。
夜中の二時です。
彼女は、黒いローブを身にまとっていました。
顔はローブで隠れています。
それで、彼女の顔がよく見えません。
黒いローブが、闇に溶けそうなほど暗い雰囲気をただよわせていました。

山本さんは彼女の顔を見ようとして、ローブに手をかけました。
すると………。
「よくぞノコノコ来たね」
彼女の声とは思えないような、野太い声がしました。
それは、地の底から響くような声でした。

「おまえを、予言通り殺してやろう……」
校門にやって来たのは、死神でした。
一方、本物の彼女は……。
三年前に亡くなった女の子だったそうです。

ちょうど、山本さんが合宿をしていた季節に家出をして、学校の宿泊施設に一人泊まり込んでいた子だったんです。
そして、何日も一人で学校に泊まっているうちに、暗く落ち込んできたのでしょう。

あるいは、この学校にうごめく霊が働きかけたのかもしれません。
彼女は、宿泊施設の窓から、飛び下りて……。

彼女が自殺してから、あの宿泊施設には、その霊がしばしば出ていたそうなんです。
ですが、山本さんが彼女と同じ世界に行きましたから、今ではもう寂しくないのでしょう。
彼女の霊が出ることはもうなくなりました。

しかし、山本さんはまだこの世に未練があるみたいです。
あれから時々、宿泊施設の中に現れるそうです。
そして、山本さんが現われた後に、彼女の声が辺りに響いて……。
山本さんの霊は、彼女の声に呼ばれるようにスッと消えてしまうそうですよ。

僕は、山本さんに何もしてあげられませんでした。
それでサッカー部をやめたんです。
宿泊施設に出る山本さんの霊と向き合うのが怖くて……。
僕は、そういう男なんです。
最低の男なんですよ……。

それでは、次の方に話を譲りましょう。
僕も真実を話しました。
どうか皆さんも、すべてをうちあけてください。
さあ、次は、どなたの番でしょう……?


       (五話目に続く)