学校であった怖い話
>四話目(荒井昭二)
>P3

そうですか。
あなたも好きですね。
では、お話しましょう。

これは、虫をわざと虫かごに押し込んで、首がもげるのを楽しんでいた人の話です。
彼の名前は、小野和宏といいましてね。
虫が好きな学生だったんですよ。
理由は、奇麗だからです。

虫の体って、人間や動物では考えられないような、きらびやかな色をしているじゃないですか。
女性の化粧品のような色をしていますよね。
小野さんは、とくに虫の目の色が好きだったそうです。
目って、人をひきつける何かがありますよね。

あなたも、人の目やペットの目などを覗きこんだりしたことがありませんか?
目って、その生き物の持つ魅力や力を、表にだすことができる器官だと思いますよ。
ええ。
それでですね、小野さんは、もげた虫の首を集めては、ビンに詰めて自宅に並べていたそうですよ。

一つのビンに、一種類ずつ、虫の首ばかりを一杯詰めてね。
小野さんのクラスメートは、そのことを大変不気味がっていました。
だから、小野さんには友達が全然いなかったのです。
それでも彼は、虫を愛することをやめませんでした。

そんなある日の事です。
クラスで観察日記のために飼っていた虫の首がもげていたのです。
虫かごの中には、首のない死骸……。
そして、虫の首はなくなっていました。
クラスのみんなは、小野さんのことを疑いました。

すると小野さんは、こういったのです。
「虫の首は確かにもらったけど、僕がやったんじゃない。虫が勝手にかごの外にでようとして、こんなことになったんだよ……」
しかしみんなは信じませんでした。
そして小野さんを責めたてました。

もし、彼の話が本当だとしても……。
小野さんが、虫の首を持っていった。
そのこと自体、罪だと思ったのです。
クラスのみんなは、もともと小野さんのそんな癖を改めさせたいと思っていましたから、集団で、彼を責めたてたのです。

小野さんは、逃げ出しました。
そこでクラスメートは、小野さんを追いかけました。
何人かのグループや、個人個人でばらばらと追いかけたのです。
小野さんは、走りました。
走って、走って、走って……。

たどり着いた所は、あの、宿泊施設の中だったのです……。
翌日、小野さんは、宿泊施設内のベッドの柵から首をだし、倒れていました。
首の骨が折れて、死んでいたそうです。
彼を殺したのは、クラスメートでしょうか。

ベッドの柵に彼の頭を押しつけ、責めたてたのでしょうか。
おまえが虫なら、これくらい苦しい思いをするんだといって。
それで、彼の首の骨が折れてしまったのでしょうか。
あるいは、今まで彼が殺めていた虫の呪いだったのでしょうか?
それとも、単なる事故なんでしょうか。

僕には、何ともいえません。
ただ……それ以来、出るんですよ。

そうです、小野さんの霊がね。
小野さんが死んだベッドに寝ると彼の首だけが、目の前にボウッと浮かびあがるんです。
そして、その首についている目は虫のようにきょろきょろし、肌の色も虫のようにきらきらとしているんですよ。
虫のように、それはもう鮮やかな色をしているんです……。

僕も見ましたよ。
サッカー部の合宿中にです。
あれは、非常に恐ろしい顔つきでした。
僕は、ずっとあの顔に見られていたら呪われると思いましたよ。
それくらい、あの首は恨みのこもった顔つきをしているんです。

僕は合宿を抜け出て、家に帰ってしまいました。
その日は先輩から電話がかかってきまして、早く合宿に戻ってこいといわれました。
しかし、僕は怖くて戻れなかったのです。

それで僕は、部活をやめることにしたんですよ。
先輩や同学年の人達との折り合いが悪くなりましてね……。
えっ?

そのベッドは、宿泊施設の中のどのベッドかって?
……知りたければ、ご自分で確かめることです。
あそこに、行ってみればいいじゃないですか?
小野さんの首は、本当に奇麗なんですから……。
僕の話は、これで終わりです。
次は、どなたの番ですか……?


       (五話目に続く)