学校であった怖い話
>四話目(細田友晴)
>A4

「霊を感じるのかい? 感じてくれたんだね。さあ、ここのどこから感じるんだい?」
細田さんは、得意げに僕に聞いた。
「あそこの便器から……」
僕は指さした。

確かに、冗談ではなくなにかの気配をそこから感じたのだった。
すると、ちゃぷっ、ちゃぽっ、と、なにか便壷から音がする。
「なんだ?」

ぼくは、細田さんと恐る恐る覗いてみた。
「えっ!?」
そこには便器の中からにゅるにゅると出たり入ったりしている男がいたんだ。
彼が、人間ではないことはわかる。
目を、大きく見開きじっとこちらを見ている。

誰か連れがいると、こういうものでも割と冷静に見ていられる。
そいつは、怖いというよりも奇妙な感じの方が強い。
しかし、よく見るとその男は僕の方を見ているのではないことに気がついた。
ゆっくり目線を追ってみる。

そこには、金縛りにあったように目を見開いている細田さんがいた。
僕は、焦って声をかけた。
「細田さん、どうしたんですか!
汗びっしょりですよ」
よっぽど怖かったらしい。

「違うんだ、違うんだよ!! 僕は、僕は!!
本当にすまない!! 中野、許してくれ」
彼は、その男に土下座していた。
トイレの、汚い床に顔をこすりつけて、何回も何回も……。
細田さんは、彼と顔見知りなのか?

すると、にゅるにゅるした男はズルリッと、便器から出た。

しばらく、ゆらゆらと浮かんでいたが、ものすごい速さで、細田さんの口の中へめり込んでいったんだ。
「細田さん!!」
僕は駆け寄り、細田さんを揺すった。

彼は、しばらくのたうち回っていたかと思うと、ぱっと目を見開いてすくっと立ち上がった。
びっくりしている僕に、彼はこういった。

「ああ、なにかすがすがしい気分だ。
気分爽快だよ、坂上君。今まで、彼のことを気に病んでいたけれど、もう大丈夫だ。彼は、寂しくて僕と一緒にいたかっただけなんだ。これからは、僕の中で彼は生きていくのさ」
よく意味が分からない僕は、きょとんとしたままだった。

そして、細田さんはいった。
なんでも、さっきの男は細田さんの友達で、以前、ある事故で亡くなったんだそうだ。
そう、トイレで……。
その時、細田さんも、その場にいたんだけど、どうしてあげることもできなかったそうだ。
細田さんは、そのことをずっと気に病んでいたらしい。

「トイレツアーはここでやめて……。
さあ、部室に戻って話の続きを聞きましょう!」
なんなんだろう、細田さんて……。
まあいいか。


       (五話目に続く)