学校であった怖い話
>四話目(細田友晴)
>B7

「ええっ!? 感じるのかい? そうか、よかった。で、どのトイレから感じるんだい」
細田さんは、得意げに僕に聞いた。
「あそこの便器から……」
僕は、一番窓側のトイレを指さした。

「そうかい、じゃあ一緒に入ってみようか」
細田さんは、嬉しそうだ。
「すいませーん。二人きりにさせてくださーい。ご協力お願いしまーーす」
彼は、元気のいい女の子のような話し方をしている。
誰かが、舌打ちをした。

みんなは廊下に出ていった。
そして僕は、彼に押し込まれるようにトイレの中に入った。

細田さんは鍵をカチャリとかけた。
その個室には、窓がついている。
そのせいか、結構明るい感じがしていた。
「さあ、坂上君もっと霊を感じるんだ。目を閉じて。感覚を研ぎ澄ませるんだ」
細田さんがいう。

僕は、取りあえず彼のいうことをきいて目を閉じた。
……しばらくの時が流れた。
僕の耳には、水道から滴る水の音だけが聞こえる。
「細田さん、何も起きないですよ……」

僕は、彼にささやいた。
「しっ! 静かに!」
細田さんは僕に注意した。
突然、ドンッ!! ドンッ!!と壁を叩くような音がした。

僕は、思わず飛び退いた。
細田さんも、僕以上に驚いているようだ。
「これ、なんの音かな?」
僕は、細田さんに聞いた。
「な、なんだろう、壁になにか当たっているのかな?」

彼も、不審そうに僕に尋ねた。
心なしか、さっきより音が大きくなっている気がする。
いや、気のせいじゃない。
確かに、音は大きくなっている。
「細田さん、ここから出たほうがいいですよ!」
僕は、彼をせかした。

「で、でも、鍵が……開かないんだ!」
彼は、おろおろするばかりだ。
「ど、どうしよう……」
僕たちは、叫んだ。
「おーーーーーい!」
「だれかーーーー!」

けれど、呼ぼうが叫ぼうが、廊下にいるはずの先輩たちは助けに来る気配がない。
このまま、この成り行きを二人で見守るしかなさそうだ。
こんなことになるとは、思っていなかったのか、細田さんはかなり焦っているようだ。

突然、あの音がぴたっと鳴りやんだ。
「坂上君……、あ、あれ見てよ!」
彼は指さした。
僕は、彼の指がさしたほうを見る。
「!?」

窓の曇りガラスに、上から真っ赤な血が流れてくるのが見えた。
それは、いく筋もの線をえがいて下に滴り落ちている。
お互い、声も出せずに立ちすくんだ。
首を吊った女の人が、ガラスに何度も何度もぶつかっているのだった。

曇りガラスを通して、その女の人の恨めしそうな目がこちらを見ている。
なんとかして、ここから逃げなければ。
僕は、細田さんにいった。

「細田さん、ドアに体当たりしましょう!」
彼はドアに思いっきり体当たりした。
鍵が壊れ、僕たちは転げるようにトイレから出た。

なんとか、そこから脱出することに成功したわけだ。
こういうとき、がたいのいい人はとくだ。
急いで、僕たちはトイレの出口から廊下に出た。
「こちら側からドアを開けようとしても、全然開かないから心配していたのよ」

女の子がいった。
僕たちは、今起こったことを彼らに話した。
そして、誰かが呟くように僕達に話し始めた。

「そうそう、さっき言おうと思ったんだけど……。そういえば以前、新校舎の屋上から首吊り自殺した女の子がいたんだよ。そのひもの長さが、ちょうどあのトイレの窓に届くくらいだったんだ。
それで、上から落ちてきたときのショックで、あの窓が割れてすごかったって聞いたことがある」

僕たちは、沈んだ気分でその話を聞いた。
僕たちが、トイレに入る前に言ってくれればよかったのに。
「はぁ……」
僕は思わず、溜息をもらした。
あんな中途半端な気持ちで、霊を感じるなんていわなければよかった……。

「まあ、取りあえず部室に戻りましょう。ここでこうしていても仕方ありませんから」
僕は、重い足取りでみんなと部室へ向かった。


       (五話目に続く)