学校であった怖い話
>四話目(細田友晴)
>C12

「いえ、別に何もありません。ちょっと立ちくらみがして倒れてしまったんです。怖い話ばかりしてたので緊張して疲れたのかもしれません……」
「……そう。ならばいいんだけど」
細田さんは、残念そうだった。

トイレのドアは開いていた。
あんなに固く閉ざされていたドアが、いとも簡単に開いている。
逃げるなら、いまだ。
僕は、細田さんに肩を担がれ、ふらつく足取りでようやくトイレからの脱出に成功した。

細田さんが、ぽつりと呟いた。
「……なあ。やっぱり、僕はこのトイレに何かいるような気がするんだけれど……」
「いえ。何もいませんよ。気のせいです」
僕は、きっぱりと細田さんの言葉をはねのけた。
その時、突然トイレのドアが閉まった音がした。

誰かが怒って、力一杯ドアを閉めたような音だった。
細田さんは、まじまじと僕の顔を見た。
「……今の聞いたかい? 風じゃないよな?」
「風ですよ。早く、戻りましょうよ。霊なんているわけないですよ」
僕は、むきになって否定した。

それは、信じていないというのではなく、認めたくないからだということは僕自身よくわかっている。
細田さんは、まるで僕の気持ちがわかっているように頷いた。

「……そうか。いや、そうだよね。実はね、僕はあのトイレの中に閉じ込められたことがあるんだよ。その時ね、トイレのドアがバタンバタン動いて、変な音は聞こえてくるし……」

「やめてください!」
僕は、細田さんの話をそれ以上聞きたくなかった。
思わず大声を出したせいか、細田さんはきょとんとして僕を見た。
けれど、すぐに微笑んだ。
意味ありげな、すべてを知っているような笑顔で。

「……ああ、そうだね。気のせいだよね。……君と僕は似ていると思うよ。すごく、似ていると思う。……さあ、早く新聞部に戻ろう。
みんながお待ちかねだ」
そうだ。
僕の仕事はまだ終わっちゃいないんだ。

僕は、重い足取りで新聞部に戻っていった。
次の怖い話を聞くために。
……後ろで、トイレのドアがまだ鳴っている気がした。
気のせいだ。
さもなければ、風の音だ……。


       (五話目に続く)