学校であった怖い話
>四話目(細田友晴)
>D12

僕は、今起きたことを彼にすべて話した。
「そうですか、そんなことが起きたんですか……」
太っていてよくわからないが、彼の目は遠くを見ているようだ。
トイレのドアは開いていた。
あんなに固く閉ざされていたドアが、いとも簡単に開いている。

逃げるならいまだ。
僕は、細田さんに肩をかつがれ、ふらつく足どりでようやくトイレからの脱出に成功した……。
その時、細田さんがつまずいた。
こともあろうか、彼は僕の方に倒れてくる。

「ぐえっ!!」
彼は、全体重を僕に乗せてきた。
だから、太っている人は嫌いだ。

ふと見ると、僕のまっすぐ前には便器の前面部が見える。
そうだ、金かくしと呼ばれる部分だ。
一瞬そこに、なにかが見えたような気がした。
「ごめんごめん、大丈夫かい?」
細田さんは、やっと僕の上からどいてくれた。

しかし、今のは……。
そして、便器からゴボゴボという音が聞こえてきた。
「!?」
情けないことに、僕は腰を抜かしてしまっていた。
「細田さん! 大変です!
……細田さん!?」

彼は、とっくに立ち上がっていた。
なにか様子が変だ。
「……まだ出ちゃいけないっていったのに。
せっかちだなあ」
彼は、便器に向かい歩き出した。
そして、便器に顔をつっこんでなにかぼそぼそと話している。

とにかく、ここから逃げなければ!!
腰が抜けていて、思うように動けない。
細田さんは、今度は便器に手を突っ込んでいた。
ズボズボという音と共に、なにか黒い物を引き出したようだ。

「お友達がやってきたよ」
彼は、そういって僕の方に歩いてきた。
「ご対面」
彼は、右手をガバッと差し出した。

「ひぃーーーー!!」
そこには、さっきの洗面所の中の顔があった。
その生首は彼の手から放れ、ずるずると水をしたたらせながら僕の周りを回りはじめる。
その顔は、ニヤニヤ笑いながら僕の顔を覗き込むと、突然鼻にかみついてきたんだ!!

激痛が走る。
その顔は、僕の顔や体を喰いちぎっている。
僕の体は、腰が抜けているうえに金縛りにあったように動けない。
もう、その顔は僕の喉元の大動脈を喰いちぎったらしい。

だんだん、意識が遠のいていく。
ぼんやりとした視界に、そいつの喉のちぎれた部分から、僕の肉片が出てくるのが見えた。
細田さんて一体何者だったんだろう……。
今となっては、そんなことはどうでもいい……。

「ダメだよ。また食べたの? 食べちゃったら、お友達になれないでしょ?」
彼の声が、遠くに聞こえた。


そしてすべてが終った
              完