学校であった怖い話
>四話目(細田友晴)
>L4

「ええっ!? 感じるのかい? そうか、よかった。で、どのトイレから感じるんだい」
細田さんは、得意げに僕に聞いた。
「あそこの便器から……」
僕は指さした。
「そうかい、じゃあ一緒に入ってみようか」
細田さんは、嬉しそうだ。
その時、

「悪いんだけどぉ、私と一緒に入ってもらえない?」
福沢さんが、横から口を出した。
やった、細田さんと入らなくてもいいんだ。

「でも……、まあいいでしょう」
細田さんは、福沢さんの押しの強さに負けたようだ。
「ね、坂上君、一緒に入ってみましょうよ」
福沢さんにうながされて、僕はトイレの中に入っていった。

カチャリと彼女が、トイレの鍵をかけた。
「福沢さんも、なにかを感じるんですか」
僕は聞いた。
福沢さんは、同じ学年ということもあって気が楽だ。
「感じる……。ここからすごい霊を感じる」
福沢さんが、震えながらいった。

「うげっ!!」
突然彼女が、口から多量の汚物を便器に向かって吐き出した。
そしてゆっくりと、顔を上げる。
彼女は、白目をむきだしていた。
そして、ぶるぶると体を震わせた。
だんだん彼女の体の震えがひどくなっていく。

「うーっ、ううーっ、うーーーーーーっ!」
トランス状態に陥ってるようだ。
僕は、出口を彼女にふさがれ、トイレの隅でその奇行を見守るしかない。
「カリカリカリ……」
ふと、彼女の奇声に混じって別の音がしているのに気がついた。

「うっ!」
下を見た僕は、気を失いそうになった。
彼女の吐き出した汚物に、大量の虫がたかっているんだ。
「カメムシ!?」
カメムシは、トイレのタンクから、便器から湧き出るようにうごめいている。

カメムシは、別名クサムシと呼ばれているくらい嫌な匂いがするのだ。
カメムシの、あの嫌な匂いと彼女の汚物の匂いが混ざり合って、僕は失神寸前だ。
「うーっ、ううーっ、うーーーーーーっ!」
彼女は、相変わらずあの状態のままだ。

僕は、目を固く閉じた。
もう、頭が変になってしまう!!
そう思った瞬間……。
彼女が、僕の肩をつかんだ。

ゆっくり顔を上げると、そこにはにっこりと笑っている彼女の顔があった。
「どうだったぁ? 楽しかったでしょー?」
そういうと、彼女は微笑んだ。
彼女は、すっかり元に戻っている。

「いったい、どういうことなんですか……」
僕は、彼女に聞いた。
「ちょっと、ここにいる霊に頼んで、坂上君に楽しい夢を見せてあげただけ」
「!?」

彼女は、続けてこういった。
「私が念ずると、霊とコンタクトが取れるときがあるんだ。坂上君が、霊を感じるなんて思ってもいないことをいうからぁ……。ちょっと、意地悪をしてあげようと思って!
うふふふっ!」

そんな、バカな話があってたまるか!!
彼女は、腕時計を指さしてこういった。
「長く感じたかもしれないけれど、あれからたったの十五秒しかたっていないんだよ」

僕は、力が抜けた。
彼女のいってることが、嘘でも本当でもそんなことはもうどうでもいい。

早く、ここから出たい。
気分が悪い。
「あっ、大丈夫?」
彼女が、僕の背中をさする。
あっ! さすらないで……。
さすったらダメ……。

「うげーーーーっ」
やってしまった……。
「あらぁー、ダメねえ。こんなに吐いちゃって。ひょっとして、もらいゲロってやつ?
あはははは」

彼女は、そういって僕を笑いとばした。
トイレの鍵を開けると、彼女はみんなにいった。
「坂上君は、あまりにも霊を感じすぎてもどしちゃったの。さあ、ここにいない方がいいよ。早く部室に戻りましょ!」
ぼ、僕は……もう彼女を絶対に信じない!!


       (五話目に続く)