学校であった怖い話
>四話目(岩下明美)
>B8

「いやだなあ。僕たちは、もう終わったんだよ。あのときのことは、いい思い出として……」
彼は、彼女にそういったのよ。
「そう、そうよね……。いつまでも思い出にすがっている私が悪いのよね」
彼女は、悲しそうにいったの。

でも、彼女も彼女よね。
あんなことをされたのにまだ、彼のことが忘れられないのかしら……。
彼女は、彼の胸にすがりつくように寄り添ったわ。
赤い傘と、青い傘が重なるように寄り添うわ。

「こ、困るよ」
彼は、思わず言ってしまったの。
「そう、困るの……。困るのね……」
その時、彼女はものすごい力で彼の首をつかんだのよ。

「うがっ!!」
彼は、彼女から離れようと一生懸命もがいたわ。
彼が、もがけばもがくほど首が締まっていく。
そして、彼女は彼の唇にかみついたの。
「んがぁーーーー!!」
彼の叫びは、もう彼女には聞こえないわ。

そして、彼女は彼の唇をかみ切ったの。
彼の舌も……。
「この口かい? 調子のいいことばかりいうのは。ふははは、おしゃべりなのはこの舌か? この唇か?
ははははは!!」

彼女の力はものすごくて、逃げられそうにもない。
カチカチと、彼の歯だけが鳴っている。
もう、気が遠くなりそうだ……。
「楽しい思い出をどうもありがとう……」

彼女は、とっさに青い傘を拾うと、彼の口の中に思いっきりねじ込んだのよ。
傘の先は、彼の気管支を通りついには胃袋も突き破ったわ。
「ごふっ、ごふっ……」
彼の口から出た血が、青い傘を染めてゆく……。

彼の脇には、あの日咲いていたのと同じ色をしたあじさいが雨に濡れていたわ。
そして一週間後、彼女はお父さんの仕事の都合で海外に引っ越していったの。
結局、彼がどうしてあんな状態で死んでいたのか誰もわからなかった……。

でも、よかったわ。
彼女は、ちゃんと彼に復讐を果たすことができたんだもんね。
えらいわ。

感心しちゃうわぁ。
やっぱり復讐はこうじゃないとね。
坂上君も気をつけなさいね。
女の子を物扱いしていると、後で必ずしっぺ返しが来るわよ。
うふふふ。
さあ次の人は誰かしら?


       (五話目に続く)