学校であった怖い話
>四話目(岩下明美)
>G7

……そう。
あなた、そういう純真な心の人は、ちょっと変だと思うんだ。
まあ、そういう人も多いかもしれないわね。
……ありがとう、私の質問に答えてくれて。
ごめんなさいね、話を続けるわ。

でも、神様っていたずらが好きね。
立花さんに、もう一度チャンスを与えたんだから。

それは、梅雨も終わりに近づいたころだった。
塚原君は、置き傘なんておかないタイプかもしれないわね。
また、雨宿りをしていたの。
たった一人でね。
そして、立花さんは傘を持っていた。

大きな青い傘をね。
立花さんは迷ったわ。
困っている塚原君を黙って見ていることはできない。
でも、自分が出ていったら、彼は嫌がるかもしれない。
でもね、結局彼の困っている姿を見ていることができなくなって、飛び出したの。

「……あのう、この傘使ってください」
最初、彼女の姿を見て、むっとした彼だったけれど、すぐに笑ったわ。
「あ、悪いね。一緒に帰ろうか」
彼女は、一緒に帰るつもりはなかったわ。
それでも、強引に彼は一緒に傘に誘ったの。

彼女はとっても気まずかった。
それでも彼は勝手にしゃべったわ。
「いやあ、ごめんよ。最近、時間とれなくってさあ。忙しいんだよね、何かとさ。わかるだろ? 俺、みんなに優しくしてあげたいんだよね。別に好きとかそういうのじゃなくってさ。な? だから、俺はゆかりちゃんのこと嫌いになったわけじゃなくってね……」

そういいながら、突然キスしようとしてきたの。
「やめてください」
突然のことに、立花さんは驚いて拒んだわ。
立花さんは今でも彼のことが好きだったけれど、彼が遊びだということはもうわかっていたから。

お互いが好きでなければ、キスをするなんていけないことだと彼女は思っていたのね。
それで、塚原君をつき飛ばした。
彼は、正直いって面食らったわ。
今まで、女の子に拒まれるなんてことなかったからね。

最初は笑って取り繕おうとしたけれど、彼のプライドは偉く傷つけられたの。
それで、彼女に襲いかかったわ。
「ふざけんじゃねえぞ、このアマ!」
立花さんは、驚いたわ。
優しいと思っていた塚原君が、ものすごい顔で襲いかかってきたんですもの。

彼女は、無我夢中で傘を振り回したわ。
「やめて! やめてください!」
突然、彼女の手に、鈍い手応えが感じられたの。
傘を持つ手が突然重くなって、何かを捕まえた感じ。

「うぎゃ……」
……塚原君が、うめいてた。
見ると、傘の先端が、彼の左目に刺さっていたの。
そこから流れ出る血が、青い傘に赤い模様を刻んでいたわ。

「……こ、この野郎。
ぶっ殺してやる!」
もう塚原君はなりふり構わなかったわ。
傘の先端を左目から引き抜くと、そこにはぽっかりと黒い穴が空いていたの。

目玉は、ずるずると神経ごと引き抜かれて、それが傘の先に刺さったままだった。

立花さんは、あまりの恐ろしさに固く目を閉ざし、とにかく傘を突き出したわ。
わけもわからず、何度も何度も傘を突き出したの。

そのたびに、何か重いものに当たる感触が伝わってきたわ。
重くて柔らかいものに突き刺さる感触……。
しばらくして、立花さんは恐る恐る目を開いたわ。

目の前には、塚原君が転がっていた。
ぴくりとも動かず、顔も身体もめった刺しにされて、血まみれになって死んでいた。

その顔は、まるで鳥についばまれたように、ぐじゃぐじゃになって、肉片がところどころめくれていたの。
見ると、青い傘も真っ赤に染まっていた。
でも、不思議と怖くなかった。

べたりと尻もちをついていた彼女は、赤く染まった青い傘を支えに、よろよろと立ち上がったわ。
そして、完全に動かなくなった塚原君の死体に、何度も何度も傘を突き刺したの。
鼻唄を歌いながらね。
そして、彼女は自殺したわ。

自分の喉に傘を突き刺して、死んでいたそうよ。
自分の喉に傘を突き立てるなんて普通できないそうよ。
痛くて、最後までできるものじゃないでしょう?
でもね、彼女はやり遂げたの。

発見されたとき、彼女の喉は前から後ろにかけてしっかりと貫通していたそうよ。
きっと、死ななければならないと思ったんでしょうね。

そして、より痛みを感じることで、自分の罪が償われると思ったんでしょうね。
だから、彼女は痛みに耐えて、傘を突き刺したんじゃないかしら。
私は、そう思うの。

別れ話のもつれた女性が、男性を殺して後追い自殺をした……という結論で片付けられたわ。
本当は違うのにねえ。
……ただ、不思議なのはね、現場に落ちていた凶器の青い傘。
最初は赤い傘だと誰もが思ったそうよ。

どうしてかというと、雨が降っていたのに、傘の血が洗い落とされなかったんですって。
傘を染め抜くように、色素が沈着していたんですって。

……これで、立花さんの話は終わり。
……でも、立花さんが死んでから、変なものが現れるようになったんですってよ。

雨の日になるとね、校門のところに、傘をもった女子高生がひっそりとたたずんでいるんですって。
まるで、傘を持たない誰かさんを待ちぶせているようにね。
彼女ね、青い傘と赤い傘を持っているときがあるんですってよ。
いったい、誰なのかしらね。

……私には何となくわかるけれど。
坂上君、あなた、気をつけたほうがいいかもね。
立花さんは、きっともう塚原君のような男には、こりたでしょうからね。
次は、あなたみたいな男の子を好きになるかもよ。

……でもあなた、立花さんのこと、変な子だと思うっていったでしょ?
気をつけたほうがいいわよ。
一途で、まじめな子ほど、怒らせるとどうなるかわからないから。
くれぐれも、女の子からの告白には気をつけることね。
軽い気持ちで遊ぼうなんて思っていると……私だったら殺すわよ。

うふふ……。
さあ、次の人の話を聞きましょうか。


       (五話目に続く)