学校であった怖い話
>四話目(福沢玲子)
>A4

うそー!
学校に入ってから、十三日の金曜日って一度もなかったじゃない。
それとも、もしかしてあの方法を知ってたの?

十三日の金曜日じゃなくても、十三階段の謎を確かめる方法を。
……そうそう、日めくりカレンダーを十三日の金曜日にしておくんだよね。
それを、十三階段の壁に掛けておけばOKってやつ。

なんだ、知ってたんだあ。
で、どうだった?
何か起こった?
……何もなかったみたいね。
そんな顔してるよ。
でもさあ、日めくりカレンダーをつける方法って、効力が弱いらしいね。

そうとう霊力がないと、十三階段にならないんだってさ。
まあ、坂上君って霊に好かれそうな顔してるけどさあ。
それと、霊感が強いのとは別だもんね。
あはは…………。
うーん。
でも、もしかしたら見過ごしてたのかもよ。

本当は、怪奇現象が起きていたのかも……。
私が試した時も、分かりにくかったもん。
……話してあげるね。
実は、昨日試したんだ。

放課後に、立入禁止の旧校舎に忍び込んでね。
例の階段の壁に、まず日めくりを掛けて。
それで、階段の下から、上に一歩一歩上がっていったの。
そしたら……。
「十一、十二、十三……なんだ、やっぱり十四あるんだ…」
もうがっくりしちゃった。

十三段目に乗ったまま、肩を落としちゃったよ。
くやしかったなあ。
でもね、私、念のため十四段目に足をかけてみたの。
そしたら……。
「きゃーーーーーっ!!」

十四段目が、なかったの!
確かに、目には見えていたのよ。
だけど、その十四段目に足を踏み出したら、スルッて床を抜けて、下に落ちちゃったの。
階段の床……っていうか段の下は真っ暗でね。
私は暗闇の中を、ずっと、ずっと下に落ちて……。

このままいつまでも落ち続けるのかしらってかんじ。
胃の辺りが、ぞわわってするのよ。
で、しばらくしたら、落ちている感じがなくなったんだけど……。
地面に落ちて止まったって感じじゃないの。

段々落ちる速さが遅くなって、やがて落ちるのがやんだ、って感じ。
それからは暗闇の中を一人で、ぼうっと立っている感じだった。
そしたら……。
そこに人が、いっぱい立ってたの。

暗闇の中に何人も何人も、私を取り囲むようにして立っていたのよ。
……人柱って知ってる?
どこかの国であったらしいんだけど……。
建設中の建物の中やその下の地面に、生きた人間を埋めこむって儀式。

建物を丈夫なものにする為の祈願なんだって。
まあ、他の理由もあるのかもしれないけど。
私、他のことはよくわかんない。
それでね、私の周りを囲んだ人々は、悲しそうなボウッとした表情をしていたの。
私、なんだか人柱みたいって思っちゃった。

その時、闇の中には泣き声が響いていたわ。
悲しい、悲しい声が……。
私、何だか怖くなっちゃって、逃げようとしたの。
といっても、どこに逃げていいのか分からなかった。
だって、前も後ろも右も左も上も下も闇なんだもん。

でも、とにかく進もうとして……。
地面を蹴って、駆け出そうとしたの。
そしたら……。
進めないの。
地面を蹴るような感覚はあったんだけど、どこにも進めないのよ。

それどころか手も足も動かないの。
金縛りみたいに動かないんじゃないのよ。
身体に力は入るし、動かそうと思えば動く、って感じがしたんだけど……。

だめなの。
その時私、気付いたわ。
これじゃあまるで、生きたまま土の中に埋められているみたいだって。

その時……。
私を取り囲んでいた人が消えて、代わりに何本もの手が暗闇から出てきたの。
そう、何本も、何本も。
きっと人柱の手よ。
私、とっさにそう思った。
私を生き埋めにする為に、捕まえようとしているんだって思ったの。
もちろん、必死でもがいたわ。

でも、手は私の目や鼻や口を塞ぐの。
私が抵抗すればするほど、手の力は強まって……。
息ができなかった。
涙も出てきた。
そして私は、気を失ったの……。

気が付くと、私は階段の下に倒れていた。
床には、日めくりカレンダーが落ちていたわ。
日めくりをとめていた金具がもろかったみたい。
カレンダーが落ちたから、十三階段の効力が切れたのね。
それで私、助かったみたい。

ねえ、坂上君。
十三階段の話は本当だったのよ。
後で聞いたんだけど、うちの学校を初めて建てたときって、十三人の死者が出たんだって。
それで、その場所があの十三階段があるあたりなんだって。
あの辺りの足場を組んでいる最中事故が起こったみたい。

それで、弔いの為に毎日お花やご飯粒をあげていた生徒がいたんだって。
その生徒は、例の十三階段の十四段目に、いつもお供物をあげていたみたい。
十四人目の被害者がでないようにってね。

それで、一時期霊はおさまってたみたいなんだけど……。
十三日の金曜日に、十三階段を数えると、その霊達が目覚めてしまうんだって。
十三人の死者がでたのって、金曜日らしいから。
結局、私が見たのは人柱じゃなかったのよね。

でも、亡くなった人だってことは変わりないけど。
だからさあ、きっと、例の階段の一段一段には、死んだ十三人の霊が一人一人ついているんだよ。
……十三階段の噂って、うちだけじゃなくてあちこちで聞くね。
十三人の死者なんていなくても、十三段の階段があれば、それだけで不吉らしいし。

でもね……。
階段は、十三段でなければ大丈夫ってものじゃないみたい。
十四段であっても、十五段であっても、十三段にする方法は、いくらでもあるんだよ。
十三段より先に行こうとする人間を、霊が地の底に引きずり込めばいいんだもん。

私が、そうされたようにね……。
坂上君。
今度、自分の家の階段を、数えながら上ってみれば?
何か、新しい発見ができるかもよ?
うふふ……。
じゃあ、次の話を聞こうよ。
今度は、どんな話かな……?


       (五話目に続く)