学校であった怖い話
>四話目(福沢玲子)
>F6

なんで?
あそこって、ちょっと空気が違うと思うけどな。
……まあいいや。
それでさ、私達、先生に見つからないように、こっそりと例の階段に行ったんだよね。

しっかりと日めくりカレンダーを壁に掛けて。
「いたっ!」
その時、洋子ちゃんが釘に手を引っかけちゃって。
指を切ったのね。
指を押すと、人差し指のお腹のところにプクーッて血が溜まったの。
早苗ちゃんたらね、それをペロってなめて、「おいし」とかいうんだよ。

笑っちゃうよね。
ふだんは、血を見ると泣き出す子なのにさ。
怖い気分が吹っ飛んで、みんなでちょっとだけ笑っちゃった。
「それじゃあ、数えるよ」
そういって、洋子ちゃんが階段を上り始めたの。
私たちも、一緒に上り始めた。

一段……二段……三段……。
けっこう、緊張するよね。
ふだんはさ、階段なんて、何も考えないで上るじゃん。

それなのに、一歩一歩足場を確かめながら、ゆっくりと階段を踏みしめていくんだからね。
そうするとさ、木のきしむ音も、ゆっくりなのね。
ぎぃーーーーーって、鈍く伸びて響くんだよ。

それがさあ、とっても怖いの。
あれ、夜だったら、絶対に泣き出しちゃったね。
数え間違えないように、私たちは一緒に声をそろえたの。

「十段……十一段……十二段……十三段………………十四段!
十四段だ」
階段は十四段だった。
十五歩目が、階段の踊り場についたからね。

「なーんだ、十四段じゃん」
私たちは、顔を見合わせて笑ったわ。
ちょっと、拍子抜けしちゃった。
心臓がドキドキするほど怖かったから、よけい期待はずれだったのよね。

「でもさ、まだ二階についてないよ。
ここは、一階と二階の中間地点だから、残り半分あるよ」
そういって、洋子ちゃんはまた階段を上り始めたの。
そうだよね。
私と早苗ちゃんも、一緒に上ったの。

一段……二段……三段……。
また、最初から数え直したわ。
緊張しながら、一段、一段、間違えないようにしっかりと数えたの。
「十段……十一段……十二段……十三段………………十四段」
また、十四段だった。

「やっぱり、十四段だよ。あんな日めくりカレンダーを掛けただけじゃだめなのかもね」
「そんなことないよ。あれで大丈夫だから」
私の言葉を、早苗ちゃんはきっぱり否定したわ。
「でも、まだ下りがあるでしょ」
洋子ちゃんは、嬉しそうだった。

少しでも怖い気持ちを持続させたいのかな。
怖い物見たさってあるじゃない。
あれって、けっこう楽しいよね。
怖い、怖いって思ってるときって、実はけっこう楽しかったりして。
あの感じかな。
だから、洋子ちゃんは笑ってたんだと思う。

私たちは頷いた。
そうよ、まだ下りがあるもの。
下りが何段だかわからない。
それで、私たち、数え始めたの。
期待を込めてね。

ねえ、坂上君。
こんな私たちって変だと思う?
1.変だと思う
2.少しも変じゃない
3.言葉に詰まってしまった