学校であった怖い話
>五話目(新堂誠)
>R6

そう、ヤツには人の死期がわかったのさ。
誰だって死にたくないもんな。
ヤツと仲良くして、自分が危ないときに教えてもらおうと思ったんだろう。
初めからわかっていれば、危険を回避できるからな。
それは責められないと思う。

責められるべきなのは、やっぱり石川だったんだ。
教えてやらないとか、嘘をつくぞとかいわれたら、ビビッちゃうじゃんか。
そうやって脅して、好き勝手やってたんだ。

でも、石川のいうことを信じない先生もいたんだぜ。
そうしたらアイツ、なんていったと思う?
「ばあちゃんの代わりに、先生が死ね!」
……だってよ。
もちろん、先生は笑って聞き流してた。

でも次の日、その先生は死んじまった。
突然、心臓マヒだとかって聞いたな。
その代わりに、寝込んでた石川のばあさんが元気になったんだって。
おまえ、信じられるか?
それが本当なら、石川のヤツ、人の寿命を入れ替えることまでできるんだぜ。
そんな能力を、あんなヤツが持っているなんて、はっきりいって犯罪的だ。
みんなそう思ってたけど、口に出していえなかったんだ。

そんなある日のことさ。
いつになく、石川が青ざめた顔をしてる。
腰ギンチャクみたいなヤツが、理由を聞きにいったよ。
そして真っ青になって戻ってきた。
「い……石川君、自分の死期がわかっちゃったんだって。今夜なんだって」

ものすごいショックだったな。
考えてもみろよ、ヤツは人の寿命を操れるんだぜ!?
自分がもうすぐ死ぬなんてわかったら、誰を身代わりにするかしれねえ。
いつもと反対に、みんな潮が引くように、サアッと石川から離れた。
とばっちりを食っちゃたまらないからな。

放課後までは、それで済んだんだ。
でも終業のベルが鳴って、みんなが教室から出ようとしたとき。
ザワザワッと先頭のヤツらがざわめいた。
見てみると、廊下に石川がいるんだ。
つり上がった、ものすごい目をしてさ。

身代わりを捜してるんだ!
みんな、すぐにわかった。
だから、教室から出られない。
石川の目に止まったら、最後だもんな。
俺だって、そんなのごめんだね。

だから俺は、窓から抜け出したのさ。
俺らの教室は二階だったしな。
でも、途中で石川に見つかった。
「新堂!!」
ヤツは叫んで、追いかけてきたよ。
恥ずかしいけど、ビビッた。

ビビりまくって、校庭を飛び出したぜ。
石川はついてくる。
校門を出たとき、向こうから歩いてくる人にぶつかりかけた。
危機一髪で避けて、体が入れ違ったとき、石川が飛び出してきたんだ。
人影を見て、俺だと思ったんだろうな。

「俺の代わりに死ねっ!!」
いきなり叫んだんだ。
その人は目を丸くしていたよ。
作業着を着た男だったな。
石川のこと、変なんじゃないかって顔で見てそそくさと立ち去ったっけ。

石川もポカンとしてた。
まさか、知らない人に押しつける気はなかったんだろうな。
でもまあ、これで死ぬことはなくなったんだしな。
ちょっと余裕を取り戻して、俺をにらみつけていたぜ。

でもその夜、石川は死んだ。
悪いヤツほど長生きするってのは、石川に関しては外れたわけだ。

満足そうに、新堂さんは話し終えた。
「ちょ、ちょっと待ってください。だって、石川って人は寿命を入れ替えることができるんじゃあ!?」
僕は混乱して聞いた。
もしそうなら、なんで死んでしまうんだ?

そんな僕を、新堂さんはニヤニヤと笑いながら見ていた。
「わかんないか? じゃあヒントだ。
校門のところにいた知らない男が着ていた作業着は有名なバイク便の会社のだったぜ」
なんのことだ?
全然わからない。
新堂さんは、僕を哀れむように首を振った。

「やれやれ、まだわかんないのかよ。
石川はな、交通事故だったんだ。
飛び出して、バイク便のバイクとぶつかったのさ」
バイク便の!?
「そ、それじゃあ、石川さんと寿命を取り替えた相手が……」

「そう、事故の相手だったのさ。もちろん、そっちも死んだ。石川のヤツ、よりによっていっしょに死ぬはずの相手と、寿命を取り替えたってわけだ」
新堂さんは楽しそうに笑った。
話ができすぎの気もするけど、新堂さんの喜び方は芝居とも思えない。

まあ、こういうこともあるんだろうな。
「ありがとうございました」
僕は新堂さんに頭を下げた。
そして、六人目に向き直った。


       (六話目に続く)