学校であった怖い話
>五話目(新堂誠)
>S6

うん、ヤツは空中から、なんでも取り出すことができたんだ。
超能力の一種だよな。
だから、ヤツの周囲にはいつでも人が集まってた。
みんな、自分のほしいマンガやらCDやらを出してもらおうとしてさ。

さもしいよな。
俺は、ヤツに尻尾を振るなんて嫌だったからな。
遠目で見てるだけだった。
全然うらやましくないなんていったら、嘘になるけどさ。
俺と同じように、ヤツに近づかない人間もわりといた。
その中に、一人の女の子がいたんだ。

内田っていったっけ。
おとなしそうで色白でさ、体育の授業も見学が多いようなタイプ。
実際、心臓が弱かったらしいけどな。
ちょっとかわいくて、人目を引くんだよ。

なんで、そんなに詳しいかって?
それがさ、石川のヤツが恋したんだよな。
内田さんにさ。
超能力も、わざわざ彼女の前で使ってみせたりしてさ。
見え見えだったぜ。

でも、彼女は一向に興味を示さない。
石川は、だんだんじれてきた。
そしてついに、彼女と直接話そうと決心したんだ。
でも石川のヤツ、まともに女の子とつき合ったことがなかったのさ。

口を開いたと思えば、
「ほしい物があったら、出してやるぜ」
……いきなり、こうだもんな。
内田さんも面食らっただろうよ。

「いいえ……結構です」
「そんなこといわずに、何かあるだろう?」
石川はしつこくいい続けた。
でも、内田さんもことわり続けたんだ。
それで、ヤツはカッとなった。

「嘘だと思ってるんだな。俺にそんなこと、できるわけないと思ってるんだろう!」
「そ、そんな……」
「信じられないんなら、あんたの一番大切にしてる物をだしてやるよ! それなら信じられるだろう!」

内田さんが眉をひそめた。
それを疑ってると思ったんだろうな。
石川は左手で右手首をつかみ、念をこめ始めたんだ。
額に玉のような汗がにじんだ。

ヤツも必死さ。
好きな女の子には、いいとこ見せたいもんだしな。
おまえだってそうだろ?
……そうしているうちに、内田さんの様子がおかしくなったんだ。
普段から血の気のない顔が、もっと青ざめて紙のような色になった。
呼吸は荒いし、脂汗を流している。

でも、石川は気づかなかった。
全身の神経を、右手に集中する。
そして、集中力が限界にまで高まったとき。

甲高い悲鳴が聞こえた。
同時に、右手に異様な感触。
内田さんが倒れるのを目の端に捕えながらも、石川は右手に乗っているモノから視線を外せなかった。
ちょうど手のひらに収まるくらいの、ぬらぬらと赤く光る物体。
したたっているのは鮮血か!?

そいつがビクッビクッと動くたびに、突き出ている引きちぎられた管のような物から、赤く温かい液体があふれてくる。
誰かの悲鳴が、また聞こえた。
バラバラと駆け寄ってくる足音が聞こえる。
石川は、倒れている内田さんを見下ろした。

左胸を押さえ、苦しそうに顔をしかめてはいるが、もう息はしていない。
そりゃそうだ。
この頃には、石川にも何が起こったかわかってきたのさ。
おまえにはわかるか、坂上?

……そうだ。
石川は、超能力で内田さんの心臓をつかみ出してしまったんだよ。
体の弱い内田さんにとって、一番大切な物は自分の心臓だったのさ。
とんだ超能力だよな。
いや、ちゃんと望み通りの物を取り出せたんだから、すばらしい能力というべきか。

……それから石川がどうしたかって?
すぐ引っ越していったからな。
俺にはわかんねえ。
でも、先生たちに連れ去られる直前のヤツの姿は見たぜ。
ボンヤリして、人格が崩壊しているようだったな。

好きな人の心臓を手にしたんだ。
ショックだろうな。
一生忘れられないだろうよ。
……うん、俺も忘れられそうにないな、あの光景は。

新堂さんは話し終えた。
そのときの情景を思い出してしまったんだろうか。
少し顔色が青いようだ。
そういえば、僕も少し気分が悪い。
でも、次で六話目だ。
「それではお願いします」


       (六話目に続く)