学校であった怖い話
>五話目(新堂誠)
>U6

「脅したんですね。ひどいですよ」
僕は抗議をした。
いくらなんでも、悪趣味だ。

ところが、新堂さんの表情が変わった。
サッとふき取ったように笑顔が消えて、真剣な目で僕を見る。
「脅し……? おまえ、今の冗談だと思ったのかよ」
ささやくような声。
嫌な予感がする。

新堂さんが怒っているからじゃない。
怒ってくれた方が、まだ気が楽だったろう。
新堂さんは怒っていなかった。
この人は恐れているんだ……!
背中を冷たい汗が伝った。

黙ってしまった僕に、新堂さんが静かな声で話しかける。
「おまえがそういうんなら……違うって証拠を見せてやる。手を貸しな」
「え……」

新堂さんが差し伸べた手を、僕は馬鹿みたいな顔でポカンと見つめた。
そんな僕に、いらだたしげに舌打ちする。
「貸せってば。このまま気づかないでいれば危ないのはおまえだぜ。俺の力を貸してやるからよ」
僕は恐る恐る、手を差し出した。

「よし、それでいい。
いいか、坂上……何が見えても、驚くんじゃないぜ」
そういって、新堂さんは僕の手を握った。
一瞬、くらっと視界が歪んだ気がした。
……でも、それだけだ。

新堂さんがいってたような、危ないものなんてどこにも……。
ふと前を見ると、新堂さんは無言で何かを見ていた。
視線の先は、僕のひざ?
彼の真似をして、僕も視線を下に落とした。

これはなんだ!?
叫びそうになった僕の口を、新堂さんが素早く押さえた。
もう、そいつの姿は消えていた。
新堂さんの手を離したからだろうか?
「驚くなって、いっただろう。変に刺激したら、何されるかわからねえぞ」
そういいながら新堂さんが離れた。

「い、今のは……」
「さっきいったヤツだよ。おまえのこと、気に入ったみたいだな」
「そ……そんな!」
あわてる僕に、新堂さんは冷ややかな目をした。

「おもしろ半分で、こんな企画立てるからだぜ。そいつを呼び寄せたのはおまえ自身だ。
ヤツは、ずっとおまえについて行くぜ」
「そんなぁ! 何か、追い払う方法ってないんですか!?」

「悪いけど、知らないな。俺だって、人より少し霊感があるだけなんだし」
新堂さんは、ニヤリと笑った。
「でも、企画を盛り上げるには最適じゃないのか? 話してるこの場で、おまえ自身が取りつかれるなんてさ……。さあて、次に回すとするかな」


       (六話目に続く)