学校であった怖い話
>五話目(荒井昭二)
>F4

ふふ……、SFとかホラーが好きなんですか。
ずいぶんと悪趣味ですね、あなた。
私は、あんまりああいうタイプは好きじゃないんですよ。
何といっても、品がありませんからね。
内容なんか、とってつけたようなもので、ただ見ためだけの恐怖や特撮に頼るものが多すぎます。

……でも、映画って怖いですよね。
いや、ホラー映画の話じゃないんですよ。
映画そのものの話です。
そう、思いませんか?

昔から、写真は人間の魂を吸い取るっていわれてたじゃないですか。
今でこそ、そんな話は迷信だって笑いますけれど、昔はまじめに信じてたんですよ。
写真を一枚撮られるごとに寿命が縮んでいくとか、三人で写真に写ると、真ん中の人間は早死にしてしまうとかね。

昔は、写真などというものが不思議に思えてならなかったんでしょうね。
自分の姿が、たった一枚の紙に封じ込められる。
まさに、魔法だったんですよ。
だから、みんな怖がった。

映画だって同じですよね。
映画が生まれた当初は、すごかったんですよ。
例えば、映画の中の人物が、画面に向かって銃を撃つでしょ。
すると、それを見ていた観客は、自分が殺されたと思って気絶したっていうんですから。

だから、あの銀幕の向こうには自分たちとは違う人が住んでいて、その人たちの生活している世界を見ているんだって、みんなは思っていたほどなんですよ。
今時は、誰もそんなこと思いませんけれどね。

……でも、それって本当に嘘なんでしょうか。
昔の人々が思っていたことは、本当にただの想像だったんでしょうか。

僕は、あながちそうだとは思えないんですよ。
フィルムというのは、時々映してはいけないものを映してしまったり、現実には存在しない不思議なものを映してしまったり……。
フィルムには、そういう魔力があるような気がしてならないんです。
僕がこれから話すのは、そんな映画の話なんですよ。

僕のクラスに、時田安男君という人がいたんですけどね。
彼は、無類の映画好きで、よく僕に映画の話をしてくれたんです。
そりゃあもう、詳しいですよ。
マニアってやつですか。

僕もかなりのものだと思っていたんですけれど、上には上がいるもんです。
彼には負けますね。
見てない映画がないくらいで。
僕が必死に調べてきて、彼の鼻をあかそうとしたけれど無理でした。

生き字引って言葉がありますけれど、映画に関していえば、彼はまさにそれでしょうね。
そんな映画好きの時田君でしたからね、
学校に映画関係のクラブがないことをとても残念に思ってました。

もちろん、彼の将来の夢は映画監督になることでしたから。
それで、自分で作ってしまったんですよ。

当時、僕たちは一年生でした。
それなのに時田君は、積極的に先輩や先生に呼びかけて、あっという間に同好会を作ってしまったんですよ。

さすがに、いきなりクラブにはなれませんでしたけど。
映画好きの人って、捜せば結構いるものですね。
何だかんだで二十人ほど集まったそうです。

彼は、たいそう喜んでいましたよ。
撮影用の機材は、ほとんど彼が持ってきました。
機材といっても、8ミリカメラや簡単な照明器具ですけどね。

8ミリといっても、今みんなが使っているようなビデオカメラじゃないですよ。
昔ながらの手持ちの8ミリカメラです。
今は、あまり見かけませんけどね。

それでも、集まった連中は大喜びだったそうですよ。
映画撮影の真似ごとができるんですからね。
ちょっとしたプロ気分です。

え?
僕ですか?
僕は、その映画研究会に参加したのかって?
いえ、僕はしませんでした。
サッカー部に入ってましたからね。

僕がサッカー部って、おかしいですか?
まあ、その話は別の機会に。
ところで、あなたはどうです?
映画研究会って興味ありますか?
1.ある
2.ない