学校であった怖い話
>五話目(荒井昭二)
>G10

そうですか、それがいいですよ。
あれは、一度見てしまったら一生後悔しますよ。
僕がそうなんですから。
実は、僕もあのシーンの凄さが目に焼きついてしまい、わざわざ8ミリ映写機を買って、家で見てみたんですよ。
はっきり映っていましたよ。

僕が実際に見た、時田君の殺される光景がね。
ところが、どういうことなのか。
しばらくしてもう一度見たら、殺された時田君の身体がどんどん腐っていくんですよ。

まるで、現実の時間と同じ流れで、あのフィルムの中の世界が存在しているかのようにね。
それから僕は、周期的に、そのフィルムを見るようになりました。
まるで、観察するかのようにね。

何ヵ月もたつと、時田君の姿は完全に白骨になってしまいました。
そして、いつの間にか画面には誰もいなくなってしまったんですよ。
白骨も、風化したのか誰かが片付けたのか、きれいになくなっていました。
骨一本残さずね。

誰もいない視聴覚室だけが、淡々と映し出されているんです。
でも、よく見たら違うんですよ。
誰もいないと思ったのは間違いだったんです。

ちょうど時田君の死体があった場所の傍らに、誰かがぼーっと立っているんです。
……それは、僕でした。
まるで、あのときのことを再現するかのようにね。

そして、僕の後ろには、何やら包帯を巻いた不気味な手が今にも伸びようとしているじゃないですか。

僕は、慌てて映写機を止めました。
止まらなかったらどうしようかと思いましたが、幸い、止まってくれました。
だから、僕は今こうして生きているんです。
もし、あの視聴覚室のときのように、機械が止まらなかったらと思うと……今でも、ぞっとしますよ。

だから、僕はもうあのフィルムを二度と見ようとは思わないんです。
もし見たら、間違いなく、今度は僕が死ぬ番ですから。
捨てることもできず、僕は引き出しの奥に大事にとってあるんですよ。
もし、誰かが見てしまったらどうしようかと思いながらね。

常に死と隣合わせにいる恐怖なんて、皆さんにはわからないでしょうね。
……僕は、いつもそうなんですよ。
あの、生きているフィルムのせいでね。

ミイラの呪いなのか、それとも映画の呪いなのか僕にはわかりません。
でも、あのときなくなったフィルムはどうなったんでしょうか。
今でも、誰かのところを巡り巡ってるんでしょうか。
きっと、人が死んでしまう理由なんて、そんなものかもしれませんよ。

どこかで、誰かにそっと自分の死ぬときの映像を見られてしまう。
あれは呪われたフィルムですからね。
もしかしたら、時田君のような映画好きの人のところにあのときのフィルムが紛れ込んでいるかもしれませんよ。
僕は、ちょっと嫌な気分になって脂汗をかいてしまった。

そして、ハンカチをポケットから取り出そうとした……。

「!?」
ポケットの中に、なにか嫌な感触がした。
「まさか……」
僕は、荒井さんに表情を悟られないように冷静を装った。
いや、そんなはずはない。
でも、この感触は……。

その時、僕の耳に荒井さんの声が響いた。
「これで、僕の話を終わります。いよいよ、最後の方ですね。……楽しみです。ふふふふふ……」


       (六話目に続く)